第683話カフェ・ルミエール楽団冬のコンサート(5)
カフェ・ルミエール楽団冬のコンサートの第二曲目、ブラームスの「ピアノ協奏曲第2番」は、史がソリストをつとめる。
来年から進学予定の音大関係者など、音楽関係者は一様に身を乗り出して、史の登場を待つ。
「あの難曲をどう弾くのかな」
「史君の新しい音楽性が発見できるかもしれない」
「とにかく、ワクワクしてくる」
・・・・そんな状態で、概ね、期待する声が大きい。
しかし、姉の由紀は、胸を抑えて、演奏前から震えている。
「うーーーー・・・あのアホの史だよ・・・ヘマしたら泣くよ、きっと」
「どうして、あんな難しい曲を選ぶの?」
「結局、顔見るのが怖くて、舞台裏にいけなかった・・・」
「里奈ちゃんにまかせちゃった・・・姉失格だあ・・・」
その由紀の様子に、父晃は苦笑い、母美智子は呆れているけれど、会場内で拍手が始まってしまった。
ということは、史が舞台袖口に顔を見せ、登場してくることになる。
由紀は、もはや舞台から目を離せない。
「あーーー!アホの史!指揮者の榊原先生と出て来ちゃった!」
「ワインレッドのスーツ・・・七五三みたいだけど・・・」
「そんなこと言っている場合じゃないって!」
その史が、指揮者榊原氏と一緒に、舞台の中央に立ち、深いお辞儀。
そして、会場全体からの大きな拍手に包まれる。
この時点で、由紀の顔は、真っ赤。
顔をおおって、泣き出しそうな雰囲気になっている。
母美智子が、由紀の手をギュッと握った。
「あなたが一番、オタオタしている、恥ずかしい」
少々キツメの言い方。
舞台では、史がピアノの前の椅子に座った。
そして、少し、目を閉じ、指揮者榊原に合図。
第一楽章が始まった。
最初は、ホルンの牧歌的なソロ、それに史のピアノがふんわりと絡む。
史のピアノの師匠、内田は、この最初の時点で、素晴らしい出来を確信した。
「音の粒が、整然と整っていて、しかも重たくない」
「一音一音に情感があふれている」
「メロディーの歌わせ方、タメの作り方、ダイナミックスの付け方も完璧、それが素晴らしい」
「本当に大きくて、豊かな音楽性だなあ・・・成長したね、史君」
音大の学長が、ポツリとつぶやいた。
「このままで、トッププロと、全く遜色がない」
「何より、オーラがすごい」
また、いつもは「批評しながら」聴く傾向がある、先輩音大生や音楽家たちからも、全く声が出ない。
内田がその様子を見て、
「まあ、こうなると思った、史君が本領発揮すれば、誰も何とも言えなくなる」
と、微笑んだ。
史の演奏は、そのような状態の中、順調に進んでいく。
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