第675話史と里奈の何でもないホッコリデート

史と里奈は、久々にデート。

マラソン大会で優勝したものの、いまだ体調は完璧ではない史を心配して、今日は家の近所の公園をブラブラと歩いている。

ただ、近所の公園といっても、かつての大名屋敷跡なので、かなり広い。


里奈

「あまり無理はできないよ、近くでいい」

「心配させてごめんなさい」

里奈

「いいの、心配したいの、それに・・・」

「それにって?」

里奈

「内緒」

里奈は、内緒以外には言えなかった。

本当は、「ここなら気兼ねなく史を独占できる」と言いたかったけれど、そのかわりに史の手をギュッと握る。


「紅葉も終わったね、落葉だらけ」

里奈

「黄色い地面も好きだよ」

「後で、珈琲飲む?」

里奈

「たまには木村和菓子店でってどう?」

「そうだね、お饅頭とほうじ茶もいいな」

里奈

「洋子さんのケーキも美味しいけれど、木村さんのお菓子は、落ちつくの」

「親方も奥様も、話し好きだから、面白い」

里奈

「うん、楽しいよね、お話したい」


途中、史は石仏を見つけた。

少し足をはやめて、じっと見る。

「お地蔵さんだ」

里奈

「へえ、可愛い」

史は手を合わせた。

里奈も、同じように手を合わせる。


「僕は石仏が好きなの」

里奈

「へえ、意外」

「雨の日も風の日も、暑い日も寒い日も 天気がいい日も悪い日も」

「見たら拝むようにしている」

里奈

「ふーん・・・そうなんだ」

「でも、わかるような気がする」


史は、突然、顔を赤くした。

そして里奈に

「心配かけてごめん」

里奈もまた真っ赤、泣き出した。

「うん・・・なおって良かった、それだけ」

「うれしくて涙でちゃう・・・史君」


史は、少し恥ずかしそうな顔。

「そろそろ木村さんのお店に」

里奈

「うん・・・」


幸せな二人は、手をつないで木村和菓子店に入り、ここでも、まさに幸せ。

お饅頭とお茶で、ホッコリ。

そのホッコリさのため、最初は話をしていた木村親方も、「ごゆっくり」と作業場に戻ってしまったほど。


木村親方の奥様も、これには仕方がないと言った顔。

「これは奈津美ちゃんには内緒だね」

木村親方

「いや、奈津美とは歳が違うしなあ」

奥様

「でも、いい雰囲気だよねえ、若いっていいなあ」

木村親方

「そうだね、光っている」


史と里奈の久しぶりのデートは、周囲までホッコリとさせてしまったようだ。

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