第663話困ったヴァイオリニスト 貴子(6)

本当に悩んでしまった貴子は、翌朝、実家の母に相談をかけた。

貴子

「とんでもない高貴な御家柄で、ピアノコンクール優勝歴のある高校生と演奏したんだけど・・・」

「あら、それはよかったわね、どうだったの?」

貴子の声が沈んだ。

「演奏そのものはいいんだけど・・・」

「何かあったの?」

貴子は涙声。

「私、演奏する前に、その子のこと聞かされていなかったから、そこらへんの近所の高校生でしょとか」

「うん・・・」

貴子

「そこらへんの近所の高校生だから、下手は下手なりにって、言っちゃった」

「・・・で、どういうお家柄なの?」

貴子

「京都の旧摂関家の・・・直系」

母は冷静。

「うーん・・・知らなかったから、しょうがないよ」

貴子

「そうかなあ・・・でも・・・格違いかも」

母はまた、冷静。

「うーん・・・でもね、それはあなたが東京とか京都の大都会だから意識するだけ」

「こっちの地方の人は、あまり、そういう高貴なことは、わからないと思うよ」

「というか関心がない、自分の会社が儲かるかどうか、自分のお屋敷が他の人と比べて立派かそうでないか」

貴子

「・・・うん・・・そんな感じだよね、文化って感じはない」

母の声が強めになった。

「貴子、勘違いしないでね、あなたの東京の音大行きは、我が家に文化の香りをつけるだけ、東京の音大卒になれば、こっちに帰ってきて褒められる要素が加わるだけなの」

「だから、ピアノの練習もほどほどに、落第しない程度でいい」

貴子の声が沈んだ。

「そう?そんなもの?」

母は貴子の沈んだ声に、少し腹立ち気味。

「あのね、貴子、まかり間違っても、都内で恋人なんてつくらないこと」

「あなたは、こっちの地元の名士のご子息と結婚すればいいの、声かけて来る人も多いの」

「親に恥かかせないで、困らせるようなことはしないで」

「ただ、普通に卒業して欲しいだけ」

貴子は、全く反発できない。

「わかった・・・こっちでは見つけない」


その後の貴子は、心を抑えて「どうでもいい人」との合奏にも耐えた。

そして、及第点スレスレで、2年生に進級することができた。

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