第657話加奈子の上京(11)

加奈子は、一泊二日の上京で予定していたことを、ほぼ終えて、京都に帰ることになった。

品川駅近くのホテルの喫茶店で、由紀と史の三人で珈琲を飲む。


加奈子

「ほんま、ありがとう、由紀ちゃん、史君、帰っちゃうのが、なんか寂しいけれど」

「都内楽しかった、三月の中旬に越してくるから、よろしくね」

由紀

「加奈子ちゃんが来てくれると、助かる、私の負担が減るかなあ」

加奈子

「負担って?何?」

由紀

「アホの史の面倒が減る、お目付け役お願い」

史はムッとする。

「姉貴のほうが、あぶない」

加奈子は笑う。

「まあ、仲がいいなあ」


由紀

「でも、まさか定食屋って思わなかった」

加奈子

「京都なら、絶対無理や、やっと都内で羽を伸ばせる」

「でもさ、文化講座にって話をしちゃったけれど、どう組み入れるのかな」

由紀

「空いている事務所があるから、あれを改修すればできるかも」

加奈子

「地域の食材を使用した定食屋さんだね」

「カフェ・ルミエールと清さんの懐石のお店と、定食屋さんか、競合しないよね」

由紀

「それはそうなる、私たちも、提案しちゃったほうだから責任とらないとね」

加奈子

「私も三月から手伝うかな」

「今はネットで情報をやり取りできるからさ、ぼくらも構想段階から協力しようよ」

由紀

「史にしては、積極的なことを言うけれど、それがいい」

加奈子

「なんか楽しくなって来たなあ、東京は動きが早くて面白い」

「京都には京都の良さがあると思うけれど」

加奈子

「うーん・・・たまには離れたいの」

由紀

「私たちもいるから、楽しもうよ」


「そういえば、道彦さんと亜美さんの披露宴も、新年会を兼ねるって」

加奈子

「楽しみやな、亜美さんには特に感激、弟子入りしたい」

由紀

「ほんとだよね、頭のキレと機転は最高、なんでも頼れる」

「華蓮ちゃんも、そうだよ」


加奈子は首を横に振る。

「華蓮ちゃんは、史君ばかり可愛がるから、評価してあげない」

由紀

「そう、私がお姉さんなのに、横取りするから気に入らない」

史は、答えられなくて時計を確認。

「もう、そろそろ時間だよ、加奈子ちゃん」


加奈子は立ち上がった。

「うん、じゃあ、一度京都に戻る」

「それで・・・史君、演奏会に来るよ」


史はにっこり。

「ありがとう、待っている」


由紀

「私もうれしくなった、気持ちに張りが出てきた」


加奈子が品川駅改札口に消えるまで、由紀と史は送った。

そして史が加奈子に、少し大きめの白い紙袋。

「はい、チョコレートとリンゴのケーキ」

「これは僕と姉貴で作った」


由紀も一言。

「母美智子よりも洋子さんよりも上を行くはず」

「3本あるから、本邸と愛華ちゃんにも」


加奈子は大笑いになって、大きく手を振り、新幹線ホームに消えていった。

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