第623話懐石料理店と支配人の始末(2)

大旦那は厳しい顔のまま、口を開いた。


「懐石料理の基本は、おもてなしの心だ」

「それを全く理解できていない」

「由紀と史、そしてルクレツィアさんたちへの態度や暴言」

「香水をプンプンさせて懐石料理を出すなど、料理への敬意もカケラも感じない」

「素材を落とし、酒で稼ぐ?それも料理屋ではあってはならない」

「料理店のメインは料理であるはず、酒がメインであるならば料理屋ではない」

「金と名声だけを先に求め、本業はおろそか、そんな料理店も経営者は認められない」


最後の言葉が決定的だった。

大旦那は、即座に調理師協会に連絡、事実と遺憾の旨などを店名と経営者名まで明確にする。


「連絡」を終えた大旦那

「相当驚いていたけれど、これで調理師のまともな補充は難しくなる」

そこまで言って、また別室に行き、誰かと電話をしている。


奥様も、難しい顔。

「おそらくねえ・・・ここのビルの地主とかオーナーとか知っているらしいの」

「たぶんね、どやしつけているかな」

奥様の言葉の通り、大声が聞こえて来る。


マスターは、苦笑い。

「怒ったら、すごいよね」

「怒りを解くには、一苦労」


清も、苦笑い。

「今回は、由紀お嬢様と史お坊ちゃまへのことに加えて、ルクレツィアさんたちにも迷惑」

「その上、肝心の料理店としてのおもてなしが、全くできていない」

「それでは、まず、許されない」


奥様が、心配になったのか別室に。

そして、すぐに戻って来た。

「あの人、今は銀行幹部に連絡している、理事として見逃せないって」

「いきなり言われて、大変ね、銀行さんも」


マスターがまた笑った。

「おそらくね、次は国税とか、そんなかな」

「その支配人も、墓穴を掘ったなあ」


清がそれについて、少し説明。

「たいてい、仕入業者を泣かす店は、脱税しているんです」

「おそらく、相当な二重帳簿かもしれない」


由紀と史は、途中から「大人の話」になっているので、何も話に入り込めない。


大旦那が戻って来た。

そして由紀と史に

「カタキは取った、もうあの店と支配人の将来はない」

と胸を張る。


由紀と史が驚いていると、

大旦那は、強い口調。

「清に、ちゃんとした懐石を作らせる」

「だから、ルクレツィアさんたちも、私が招待する」

「孫がお世話になったんだから、お礼はしなければならない」

「日本料理の汚名挽回もしなければならない」


由紀と史は、

「はぁ・・・すごい・・・」

同じ顔をして、ため息をつくばかりになっている。


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