第612話由紀と史のデート?(1)

珍しく朝から、由紀は史にやさしい言葉をかけている。

「史、おはよう」

「昨日は遅くまで勉強頑張っていたね」

「珈琲淹れた、パンとスープも温めた」


史は、キョトンとなっているし、実はアヤシイと感じている。

「姉貴のこういう時は、絶対にタクラミがある」

「そして、ろくでもないタクラミがある」

そう感じるので、応えも限定的。

「うん、ありがとう、助かります」

それ以上口にすると、何を言ってくるかわからない。

できれば、ササっと朝食を済まし、自分の部屋に戻ろうと考えている。


しかし、史の考えは甘かった。

珈琲を口にした途端、由紀の「タクラミ」が露わになった。

由紀

「ねえ、史、今日は付き合って、土曜日だから休みでしょ?」

「そんなに大変じゃないからさ」


史は、珈琲にむせた。

とても返事ができない。

「だめ、都合がある」

本当は無いけれど、無くてもあると言わなければ、大変なことになることは、予想がつく。

しかし、言おうと思って焦るので、ますます珈琲にむせた咳が止まらない。


おまけに、さすがに「強引な姉」である。

史の正式な返事などは聞かない。

「じゃあ、いいよね、えっとねキチンとした服」

「出発は10時、決定」

「じゃあ、私は着替えるかな」

と、どんどん着替えるべく、階段をのぼって自分の部屋に入ってしまった。


史は、ようやく咳がおさまってため息をつく。

「はぁ・・・どうして姉貴って、ああなるんだろう」

「こっちの都合なんか、何も聞かない」


少し離れた所で話を聞いていた母美智子が、史に話しかけてきた。

「しょうがないからついて行ってあげて」

「懐石みたい、清さんとは別行動なの」

「というか、清さん抜きで、自分の作法を試したいみたい」


史は、面倒そうな顔。

「懐石を食べるって、いきなり言われてもね」

「場所も言わないしさ」


美智子は、史の顔をじっと見た。

「なんだかんだと言ってね、由紀は史を頼るの」

「ずっとそうだと思うよ」

「嫌とか何だとかの話ではないかな」


史も、それはわかっている。

「うん、しかたないね」


美智子は、やさしい顔。

「たった二人の姉と弟だからさ、親としては仲良く」


史もやさしい顔になった。

「何とかします」


二階の由紀は着替えに忙しいらしい。

パタパタと動き回る音が、一階にまで響いてくる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る