第578話道彦と史のコラボ(1)

日曜日の朝、史は出かけようとしている。

行先は、母美智子には伝えてあるけれど、姉の由紀には「面倒だから」伝えてないらしい。

そして案の定、玄関先で由紀に問いただされることになった。


その由紀は最初から怒り口調。

「史!どこに行くの!里奈ちゃんと、またデートなの?」


史は、「またか」と思い、いい加減に答える。

「うん、デートだよ、でも今日は里奈ちゃんじゃない」

「そろそろお迎えが来るの」

とまで言って、靴を履いて玄関から出ようとする。


そこでまた由紀は怒った。

「浮気するの?呆れる!この大バカ者!」

いつもの、「ポカリの手」が動き始めると、母美智子も面倒そうに顔を出した。


美智子

「由紀も、うるさい!」

「史の出かける先は、私がしっかり聞いてあるし、全く問題が無い」

と、まず由紀を叱り、次に史に

「史も素直に言えばいいのに」

と言いながら、大きな紙袋を渡す。


由紀は、全く意味不明。

「じゃあ、どこに行くって言うの?誰と会うっていうの?その紙袋は何が入っているの?」

とにかく気になって仕方がないらしい。


そこまで言われた史も、「面倒そうな」顔。

でも、言わないと由紀の性格上、おさまらないと思ったらしい。

ようやく、説明を始めた。

「あのさ、行先はカフェ・ルミエールの地下ホール」

「デートの相手は、道彦さんとフィアンセの亜美さん」

「道彦さんは、カフェ・ルミエールの文化講座記念パーティーでトランペットを吹くから、その練習に付き合うだけ」

「で、この紙袋は、その後のおやつのシュークリーム」


由紀は、ようやく理解してホッとしたらしい。

一旦は、「うん」と頷いたけれど、また怒り顔に戻った。

「私だって、道彦さんに逢いたい」

「それなのに、仲間外れにするわけ?」

「そのうえ、シュークリームを私に黙って食べるわけ?」

・・・・・

とにかく言い出したらキリがない由紀である。


ただ、由紀の文句もそこまでだった。

玄関のチャイムが鳴り、「道彦です、史君をお迎えに来ました」の爽やかな声がインタフォンから聞こえてきた。


すると由紀は、怒り顔から、いきなり「うれしさ満点」の顔に変化した。

そして

「はーーい!ただいま!」

とにかく明るくお返事。

あっけに取られる史と美智子を押しのけて、走るように玄関のドアを開ける。


玄関の前には、道彦と亜美が並んで立っている。






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