第548話華蓮と史(1)
史の熱中症は、ほぼ三日で回復した。
そして、史は、どこかに出かけるような雰囲気になっている。
由紀は、それが少し気になった。
「史!どこに行くの?また倒れないでよ」
「まだまだ、すごく暑いんだから!」
史は、そんな由紀が面倒。
「姉貴、うるさい、何でいちいち、そう言ってくるの?」
「どうして、そう上から目線なの?」
ただ、由紀は文句を言い出したらひかない。
「あのさ、史!あなたはひ弱で軟弱なの!」
「ちょっと前まで倒れていて、どれだけ周囲の人を心配させたかわかっているの?」
「涼子さんだって、心配して泣き出しちゃうしさ」
・・・・・・
とにかく、ずっと言い続けるけれど、史は途中から聞いていない。
出がけに「華蓮ちゃんと出かける」とだけ、言い残して出かけてしまった。
結局、ほぼ無視状態になった由紀は、怒っている。
「何だって?華蓮ちゃん?まあ親戚だし大人だからいいけどさ」
「でもさ、華蓮ちゃんは、史だけを誘ったの?」
「私は、置いてきぼり?差別待遇?」
「うーん・・・華蓮ちゃんも華蓮ちゃんだ・・・あんな史みたいなのと出かけて何が面白いんだろう」
怒りは、途中から疑問に変化したけれど、また、こうも考えた。
「まあ、いいや、お土産が無かったら、また史の頭をポカリしよう、それぐらいは役得だ」
何が「役得」なのかは、よくわからないけれど、由紀の怒りはそれで何とかおさまった。
さて、ようやく口うるさい由紀をほったらかしにした史は、華蓮との待ち合わせ場所の、カフェ・ルミエールのビルの二階、文化講座事務局の部屋に着いた。
史が、ノックしてドアを開けると、華蓮がニッコリと出てきた。
華蓮
「はーい!史君、待っていたよ!それで体調はどう?」
史は、キチンと頭を下げる。
「うん、華蓮ちゃん、心配させてごめんなさい」
「かなり回復しました」
久我道彦も出てきた。
道彦も史を見るなり、うれしそうな顔。
「史君だね、道彦だよ」
「ほとんど会ったことはないけれど」
と、史としっかり握手をする。
史も、うれしそうな顔。
「はい、道彦さんは、ほとんど日本にはいなかったんですよね」
「でも、大旦那からお話は、いつも」
道彦は史の目をしっかりと見た。
「将来は、ヨーロッパで音楽とかしたいって話を大旦那とかマスターからも聞いているよ、その時は僕にも声をかけてね」
「かなりの詳しい話もできると思うし、まだ父も母もパリに住んでいるからさ」
史の目が、その言葉で、パッと輝いている。
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