第542話史が熱中症でダウン(5)

京極華蓮は、難しい顔。

「とにかく、史君の体調回復、後は野球部の監督の問題行為かなあ」

「史君の体調回復については、美智子さんにお任せ」

「監督の問題行為については、私にも情報が入っています」


華蓮の言葉に、由紀が反応した。

「華蓮ちゃん、その情報ってどこから?」

里奈も、美智子も、同じようで、華蓮の次の言葉を待つ。


華蓮は、おもむろに口を開いた。

「私が聞いたのは、さっきカフェ・ルミエールで」

「その人たちも、地域の人で、野球部の応援で野球場に出向いたらしくて」

「とにかく、野球部の監督の問題采配とか、典型的な精神主義の野球監督という話になっていて」

「精神主義も全て悪いとは言い切れませんが、そもそも、精神的なものは、個々様々に変動するものだと思うんです」

「ただ、それを勝負のようなものに際して、基本に置くことは危険極まりない」

「不安定なものを基本には出来ないと思うんです」


この華蓮の言葉には、由紀、里奈、美智子も、フンフンと頷く。


華蓮は言葉を続けた。

「野球みたいなスポーツにおいても、気持ちだけで戦うのではなくて」

「肉体を使うものだから、そのコンディションが崩れていれば、負ける確率が増加するのは当たり前」

「そのうえ、自分の指揮下で戦って負けた選手を、理性を失って責め立てる」

「直接には指揮下にない、史君まで、感情に任せて大声で怒鳴りつける」

「史君が怒鳴りつけられる様子も、その人たちも見ていたらしくて、かなり憤慨していました」



由紀は、そこで不安を覚えた。

「でもねえ、史って、大事になるのを嫌がるよね」

里奈も、顔を下に向けた。

「あの監督も謝らないし、自分の非は認めないと思います」

美智子も難しい顔をして黙ったまま。


華蓮は、しかし首を横に振った。

「でもね、話を聞いたのが、カフェ・ルミエールなんです」

「その話は、洋子さんから、マスターの耳にも、しっかり入っています」

「で・・・そうなると・・・」


美智子の表情が変わった。

「・・・う・・・大旦那?」

由紀も震えた。

「大旦那、絶対に怒りまくるよ」

里奈も、大旦那を思い出した。

「すごく頼れる人ですが、怒ると怖そう」


華蓮は、フッと笑う。

「マスターが言わなくても、私が言うかもです」

「それと、地域密着のカフェ・ルミエールとしては、不穏な行為は見逃しません」

「大切な地域と、大切な史君なんだから」


華蓮は、サッと里奈の手を握っている。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る