第509話作法教室

午後10時のカフェ・ルミエール。

マスターと清は、話し込んでいる。

マスター

「もう一人か二人、手元をする弟子は考えているのかい?」

清は、少し考え

「お屋敷からは、引っ張れないので、スカウトをしようかなあと」

マスター

「数人のアルバイトも必要かな」

「そうですね、アルバイトもこちらで現地調達です」

マスター

「カフェ・ルミエールの昼間の部も、今手伝ってもらっている美幸さんも、料理学校からスカウトしたよ」

「そうですねえ、基本だけ、しっかりしていれば、かまわないです」

マスター

「下手に他の店で修行してくると、変なクセがついていることがあるしさ」

「私も、京料理の作法がベースになるので、なるべく無垢な人がいいなと思っています」


マスターは、少し話題を変えた。

「由紀ちゃんで、大丈夫と思うけどさ」

そうは言うけれど、少々の不安があるようだ。

清は、苦笑い。

「はい、史お坊ちゃまは、まだ高校3年生ですし、受験もあります」

「由紀お嬢様は、明るく、ハキハキとしていますので、大丈夫かと」

マスターも、少し笑った。

「そうだねえ、清さんは由紀ちゃんの、憧れなんだ」

清は、困ったような顔。

「ねえ、ありがたいのですが、身分違いです、ちょっと歳も一回りも違いますし」

マスターは、そんな清の言葉に、首を横に振る。

「まあ、そこまで考えなくてもいい、といって、まだその段階でないか」


今度は清が話題を変えた。

「それとね、マスター、作法の教室もしたいなあと思っているんです」

マスターは、その清の顔を見る。

「そうか、作法か・・・」


清は話を続けた。

「和食の味だけを提供しても仕方ないと思ったんです」

「それだと、食べるだけになります」

「史お坊ちゃまとか、由紀お嬢様は、完璧にこなしますが・・・今後の若い人にも、それを伝えようかなあと」


マスターは、深く頷いた。

「そうだよね、料理と作法が揃って、懐石料理だしなあ」

「この作法も、日本独特の、相手を思いやる文化だ」

「すごく大切なことだと思うよ、その文化しっかり継承する、継承させるか」

「これは、いいことを考えたなあ」


清は、マスターの賛成を得て、ホッとした。

「史お坊ちゃまは受験なので、お手本に由紀お嬢様がいいなあと、思っています」

と、マスターに言うと


マスターは首を横に振る。

「いや、史君は受験後も、やめたほうがいい、またそれで女難が発生する」

「史君が、また悩む」


清は、目を丸くしている。


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