第497話由紀と清さん(7)

清と洋子、奈津美がキッチンで協力して作り始めたのは、「海老しんじょうのお吸い物」だった。

いろいろと話をしながら作っていく。


「昆布の出汁も、ほぼいい感じです、ある程度時間を置いたので」

洋子

「本格的な和食なんて、料理学校以来だけど、これはこれで刺激があります」

奈津美

「海老も、さすが清さんですね、築地で天然物を仕入れてこられて」

「海老は背わたを取って、殻を剥いたら塩をまぶして、水洗いします」

「カラはもう一度、水洗いします、後で使います」

洋子

「海老を包丁で叩いて、卵の白身や長芋、片栗粉、酒、塩と一緒にボウルに入れ、よく混ぜる、これも料理学校で教わりました、これで海老しんじょうを作る」

奈津美

「はんぺんでもいいって聞いたけれど、その前に本格的ですね」

「そうですね、大旦那もマスターも由紀ちゃんも史君もいますので、見抜かれます」

洋子

「昆布の出汁の鍋に、海老のカラを入れて、三分ほど煮出す」

奈津美

「沸騰した鍋に、出来上がった海老しんじょうを入れて、薄口醤油と塩で、味を調整する」

「それで器に入れて、三つ葉を添えます」

「これで、海老しんじょうのお吸い物は出来上がりです」


出来上がって、清はホッとした顔、しかし、味にうるさい大旦那とマスター、そして史に出さなくてはならない。

洋子

「ためらっていても仕方がない、大丈夫と思います」

奈津美

「全て手順通りです、これ以上は考えられません」


清も、二人の言葉に背中を押された。

「出しましょう」と、低い声で一言。

奈津美が全員分の「海老しんじょう」を、運んだ。


由紀が、まずニコニコ。

「うれしい!清さん!覚えていてくれたんだ」

と、清に笑いかけるけれど、清は少し相好を崩しただけ。

それよりも、大旦那、マスター、史の表情を見ている。


その、大旦那の表情に変化はない。

「悪くはない、しかし・・・」

少し首を傾げて難しい顔。


マスターは、唸った。

「そうか・・・ここまで、違うのか・・・」

同じように難しい顔。


史はポツリ。

「清さん、作り方は京都のお屋敷と同じだと思う」

「でも、微妙にズレている、その微妙な味のズレが連続して、かなりな違いになっています」


由紀は、言いづらそうな顔。

「全ての甘味と言うか・・・」

「別の料理みたい」


史は、もう一言あった。

「水の旨み、海老はそれほど違わないけれど・・・三つ葉の旨みも違う」


清の顔が、そこでハッと輝いている。









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