第476話大旦那の提案(1)
午後8時、カフェ・ルミエールはいつもの静かな雰囲気。
席も固定客でほぼ、埋まっており、アシスタントの美幸も仕事に慣れ、スムーズに接客もこなしている。
マスターがそんな美幸を目を細めて眺めていると、店の扉がゆっくりと開けられた。
マスターは、思わずドアから現れた主を見て、にっこり。
「おや、珍しい」
美幸も、すぐに気がついた。
「あら、大旦那様、いらっしゃいませ」
「カウンターになさいますか?」
さっと、大旦那の手を引き、カウンター前に案内する。
大旦那は、マスターより、まず美幸に微笑む。
「ああ、ありがとう、いい娘さんだ」
「気が利いていて、私の知りあいからも、評判が良くてね」
大旦那から、そんなお褒めの言葉をいただいた美幸は、顔を真っ赤にしている。
さて、美幸の案内で、カウンター前の席に座った大旦那は、「コホン」とまず、咳払い、何かマスターに話がある様子。
マスターは、フッと笑い
「じゃあ、トワイスアップをおつくりしましょうね、美幸に作らせましょうか?」
と言うと、軽く頷く。
大旦那は、実は話の本題に早く入りたい様子だったけれど、マスターにそう言われて、美幸の笑顔で見つめられると、なかなか話を始められない。
ただ、大旦那も、美幸の作ったトワイスアップを飲みたくなったらしい。
トワイスアップをが、自分の前に差し出されてから、ようやく話をはじめた。
「ここのビルの改装計画を考えているんだ」
「もちろん、ここの店と地下ホールは変えない」
「ただ、有効に使えていない部分があるから、それをもう少し有効に使いたい」
マスターは腕を組んだ。
「具体的には、どんな感じで?」
「もちろん、ここの店は区分所有で俺の持ち物ですが、全体は大旦那の持ち物なんで、文句を言うこともないのですが」
すると大旦那
「ああ、2階の改装をまず、今は我が家の私財とかと置いてあるけれど、もっと地域とか社会に貢献するものにしたいんだ」
と、まで話して、少し間を置いた。
「具体的には、懐石の店を作りたい、そして日本料理の技術を伝える拠点にしたい」大旦那の目の光が強くなった。
そして、美幸の顔をチラリと見て、
「こういう若い人にも、日本料理の本当の技術を教えたいんだ」
「マスターとか洋子さんの西洋料理とかケーキも、素晴らしく人を感動させるものがある」
「しかし、その中で、日本人として、忘れてはいけない技術とか、料理の心が失われているのでないか」
「その思いが、最近本当に強くなってきたんだ」
大旦那の口調は、次第に熱を帯びてきている。
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