第395話愛華の悩みと音大見学(4)

愛華は、由紀に連絡を取ったことで、一応はホッとした。

「とにかく、メチャクチャな反対とか文句は言われなかった」

「やはり、加奈子ちゃんに事前に手を回してもらったことが、功を奏した」

そこまでは、良かった。

愛華にとっては、本当に大事な連絡をまだ取っていないのである。

つまり、「史本人へのお願いと承諾」をまだ、取っていない。


愛華は、そこでまた悩んだ。

「まずは外堀からと思うたんやけど」

「外堀は埋まったんやけど」

「本丸に向かうのは、ドキドキするなあ」

「声が裏返ってしまうかもしれん」

そんな心配が先に立ち、なかなかスマホを手にするものの、指が動かない。


「え?何で?とか言われたら、どないしよう」

「その日は彼女とデートとか・・・」

「そんなこと言われたら・・・うー・・・膝がガクガクしてきた」

「一生懸命根回ししたのに、それもブチ壊しや」

「あーーー・・・どないしよう・・・」

これで愛華は、けっこう、ドキドキするタイプのようだ。


それでも、いつまでも、このままではいられない。

「うん、よし!目をつぶって」

「史君に思いっきり、私のお願いをしよう」

「もう、声が裏返ってもかまわん」

「でも・・・ドキドキする・・・」

そんなタメライを何度もした後、愛華は結局史に、スマホコールをした。


史が「はい、史です」と、コールに応じると


愛華

「史君、・・・愛華です」

ここで、声が震えた。


「あ、はい、お久しぶり、元気だった?」

と、超フツーに返してくる。


愛華は、そのフツーさに、またドキドキするけれど、目を閉じて

「なあ、史君、来週の土日なにか都合があるの?」

「もしなかったら、お願いがあるんやけれど」

ここまで言って、本当に胸が苦しくなった。

自分でもセーターに包んだ胸が上下していることを自覚する。


史は

「え?予定?えーっと・・・」

何か手帳を見るような雰囲気、カサカサとページをめくる音がしている。


愛華は、自分の胸を押さえながら、ジリジリとして待つ。


史の応えは

「ああ、少しだけ用事があるけれど、愛華ちゃんの用事って何?」

「用事って言っても、カフェ・ルミエールに行くぐらいだけ」

というもの。


愛華は、ホッとした。

本当にうれしくなった。

とにかく「彼女とのデート」とは言わなかったことが大きい。

これで、ようやく「お願い」の中身を話すことができるようになった。


そして、愛華は一気に

「あのな、来週の土日に、大旦那のお屋敷に加奈子ちゃんと泊まって」

「都内散歩とか、史君の音大も見たいんや」

「もしかすると、うちもな、史君の行く音大を受験するんや」

「それで、道案内をお願いしたいの」

多少、話の順番は、変かもしれないけれど、言い切ってしまった。


そして史の返事を目を閉じて待つ。



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