第388話マスターVSテレビ局(1)
マスターの表情は、いつになく強張っている。
その理由としては、カウンター席に座ったテレビ局の番組制作会社の若い男の態度が気に入らないためである。
その、テレビ局の番組制作会社の男は、夜の10時に突然、カフェ・ルミエールに入ってきた。
そしてカウンターの前の席に座るなり「田中」という名刺をポンと投げ出すようにマスターに渡した。
そして、マスターがムッとする顔など見ないで、そのまま話しだした。
「ああ、お初にお目にかかります」
「地域で有名なレストラン・バーの食べ歩き番組を企画しているものです」
「是非、ここでも撮影をしたいのです」
「予定としては、一ヶ月後の今日、タレントは飲み歩きで有名なお笑いタレントを使います」
「つきましては、お宅のメニューを持ち帰りたいのですが」
「それと放映のための、協力金としては」
その「田中」が、そこまで言った時だった。
黙っていたマスターが口を開いた。
「田中さんとおっしゃるのですか?」
「残念ながら、この私にはあなたの言うことがまるでわかりません」
「突然、連絡もなしに、この店に入ってきて、テレビ放映の日だとか何とか」
「しかも、その日程まで決めてある?」
「こちらの承諾も何もなく」
「そもそも、お願いをするのは、そちらの方ではないですか?」
「最低限、アポを取るべきではないですか?」
「こちらにはこちらの都合もあります」
「私からテレビ番組とかのお願いをしたわけではないですし」
「それに、協力金とは何ですか?」
マスターはそこまで言って、少し厳しい顔になっている。
しかし、その田中は、なかなか引き下がらない。
マスターの反発を受けて、言葉もゾンザイなものに変化した。
「あのさ、お願いをされなくても、こっちから出向いてあげて取材してあげて放映してあげるって言ってるの」
「お宅の店だって、ますます有名になって売上もあがって問題ないじゃん」
「それにこっちだってさ、仕事の都合があるんだ」
「だから、そんなチンケなこと言わないで、メニュー渡せよ」
「多少の協力金払ったって、それだけ有名になって売上増えるんだからいいじゃないか、どこに問題がある?」
「いいかい?有名タレントが来るんだよ、彼だって期待しているんだから」
「この俺だってさ、上司の指示で来ているんだから、こんな夜にさ」
・・・・とにかくまくし立てる。
マスターの顔は、ますます機嫌が悪くなっている。
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