第371話史の音大招待論議

史が見ているメールは、カフェ・ルミエール楽団の指揮者の榊原先生からのものだった。

そして、ケゲンな顔で「誰から?」と聞いてくる由紀に「榊原先生」と告げたあと、少し首を傾げている。


それには、由紀も気になった。

「ねえ、榊原先生が何だって?」

「面倒だから、そのスマホ見せなさい」

またしてもキツめの言い方になっている。


ところが史は、その由紀に何の抵抗もしない。

「意味不明・・・」

とポツリと言って、そのままスマホを由紀に渡してしまう。


渡された由紀も、史の無抵抗さに「え?」と思ったけれど、素直にメールの文面を見る。

そして父晃も、母美智子も注目しているので、その内容を伝えてしまう。


「つまりね、史の年末の演奏会の演奏が、音大の先生たちの注目を集めているらしいの」

「それでね、是非、音大に来て欲しいってこと」

「お迎えつきみたい、日時も史の都合に合わせるとまで」


それを聞いた晃と美智子は、驚き顔のまま。


そして史は

「うーん・・・行ってもいいんだけど・・・そうなると演奏家としてだよね」

「僕は学者とか研究者志望なんだ、演奏は付け足す程度にしか考えていない」

「行ったら、かえって面倒かなあ」

少しためらっている。


そんな史に、由紀が

「ああ、心配だったら、私もついていく」

「変なことを言ってきたら、バシッと私が言ってあげる」

付き添いを主張してきた。


史は

「え?マジ?姉貴と行くの?」

「やだ、こんな年になって、姉貴と同伴なんて」

そうやって嫌がるけれど、由紀は引き下がらない。


「ダメだって!史は変に押されちゃう時があるしさ」

「それに、また、小うるさい女どもに群がられたらどうするの?」

「いい?史の将来が決まる時なんだよ?」

「私だって、心配でしょうがないんだから!」

とにかく、「いつもの怒り口調」の由紀になった。


ようやく美智子が救いの言葉

「由紀も言い過ぎ、そこまで史は弱くないよ」

「でもね、由紀もそこまで言うんだったら、まあ、一度だけ、ついていったら?」

「史も本当は不安でしょ?」


晃からも

「とにかく行って見て、史は史で、自分の考えをしっかりと伝えなさい」

「私からも、榊原先生にも、ああ、学長も知り合いだから、話を通しておく」

と、落ち着いた「諭し」があった。


史は

「ありがとうございます、わかりました」

と、ホッとした顔。


由紀は

「まったく!世話が焼ける!」

と言いながら、少しうれしそうな顔に変化した。


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