第367話京都での披露宴(10)
マスターのレシピによるビーフシチューの後は、通常のおせち料理に戻った。
そして、いつもの「一族」の新年会が続いた。
マスターは、やはり涼子が心配だったようだ。
そっと、声をかける。
「来年からは、こういう高い席ではなくて、普通の席になるよ」
涼子も、マスターの顔を見て
「うん、そのほうがいい、気が楽、でも和やかでいいわね」
いつもの、優しい顔に戻っている。
美智子が、マスターと涼子の前に来た。
「ねえ、来年からは隣の席にね、涼子さんと一緒のほうが安心する」
やはり美智子も、少々の緊張はあるようだ。
そんなやり取りが、少しあったものの、新年会兼今回特別のマスター一家の披露宴は無事に終了した。
三々五々、満足した様子で、お屋敷を後にしていく。
晃は、マスターに声をかけた。
「今夜は少し遊ぶ?」
マスターも、まんざらではない様子。
「そうだねえ、上品なお料理ばかりだったからなあ」
晃はそこで笑い
「あのね、大旦那と孝兄さんと、雅仁さんもだってさ」
マスターはククッと笑う。
「かつての悪ガキばかりだねえ」
晃は
「本邸のバーでさ、大旦那がカクテルを作るって大騒ぎしている」
マスター
「あはは、夜通しになるねえ」
大笑いになっている。
さて、大人の男たちはともかく、史は由紀、加奈子、愛華たちと話をしている。
まず、加奈子が史に
「ねえ、史君、あそこまで上手なのに、西洋中世史なの?」
と、少しキツめの問いかけをする。
史は
「うん、音楽って商売にしたくないんだ、やりたいのは西洋中世史」
きっぱりと言い切ってしまう。
由紀は、いつもの由紀に戻った。
「あのね、史はボンヤリオットリだから、激烈な音楽の業界ではついていけないの」
「下手に音楽やらせて、大失敗とかされても、迷惑」
由紀も、史の「音楽家計画」は、はっきりと否定する。
それでも加奈子は粘った。
「それでもな、史君の演奏を聴きたいという人も多いんやし、感動する人も多いんや、史君の音楽性は、埋もれさせてはいかん」
「だから、何らかのことを考えんと・・・音楽そのものは嫌いじゃないんやろ?」
史も、それは図星だったようだ。
「うん・・・そうなんだけどねえ・・・」
少し難しい顔になる。
そんな史に、愛華がスッと寄り添った。
そして
「なあ、うちな、ずっと考えていたんやけど・・・」
「機嫌悪うせんとな・・・」
「嫌やったら嫌ってハッキリ言って構わん」
愛華は、ずっと考えていたらしい。
少し慎重な物言いながら、史に
「史君、西洋中世史を学ぶ中で、西洋音楽史ってあるやろ?」
「西洋庶民史にも、王朝史にも関係すると思うんや、案外深いのでは?」
「当然、古楽器とか、古楽器職人とか、素材とか、流通とか、吟遊詩人とか・・・」
ポツリポツリと史に、提案をする。
すると、史の表情がガラッと変わった。
「え・・・あ・・・そうか・・・」
「面白い!そうなると西洋中世史と音楽と両方できるんだ!」
「愛華ちゃん、ありがとう!」
史の瞳が、キラキラと輝きだしている。
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