第307話マスターの軽食

「少し食べましょう」といって、奈津美、結衣、彩が史を「拉致」した場所は、結局、カフェ・ルミエールだった。

それは「どこにする?」との話になった時に、史が「カフェ・ルミエールでいい、外は寒い、地下ホールに呼ばれてもすぐに戻れる」と言ったからである。


「うん、たしかに」奈津美

「風邪をひかせても困る」結衣

「味は抜群だ、問題なし」彩

と、素直に史の意見にしたがった。


そんなことで四人がカフェ・ルミエールに戻るとマスターが少し笑っている。

「おや、どうしたの?練習の空き時間?」

と言ってきたので、史は素直に頷く。

そしてそのままカウンターの前の席に座ってしまう。

しかたなく、奈津美、結衣、彩の三人もカウンターの前の席に。

本当は四人テーブルで「じっくりと史とお話」をもくろんでいたけれど、かなりな誤算になった。


マスターが

「史君・・・というかみんな、何か食べる?」

と言ってきたので


「軽めでいいんですが」

と頭を下げる。


マスターは

「ふむ、そうなると・・・」

と少し考えてキッチンに消えた。


奈津美は鼻をクンクンとする。

「何だろう、チーズの香りがしてくる」

結衣

「ねえ、すっごく香ばしい・・・お腹減ってきた」

「うー・・・何だろう・・・」

とキッチンを覗き込む。


そんな女子三人に史

「おそらく焼きチーズ、チーズガレットだと思う、チーズせんべいという人もある」

「それと、あの香りは・・・わかった」

どうやら史は、マスターの作っているものが香りでわかったようだ。


女子三人は「え?」という顔で史を見るけれど、聞いている時間はなかった。

美幸が「料理」を持ってきてしまったのである。

美幸は史を見てニッコリとしながら

「チーズガレットとボルシチ風スープ、ロールパン」

をカウンターの前の四人にそれぞれ置く。


「うわ!チーズを焼いただけなのに!マジ美味しい!温まるし」奈津美

「このボルシチ風スープ・・・味が典雅な感じ・・・うっとり・・・さすがマスター」結衣

「そのうえ、この温かいロールパンも絶品」彩

女子三人は、この時点で食べる専門女子となった。


史は

「本当に美味しいや、身体も温まる」

とうれしそうに食べきってしまった。


戻ってきたマスターはクスッと笑う。

そして

「由紀ちゃんには内緒にしておく」

とコソッと言うと、史はホッとした顔。


女子三人を代表して奈津美

「あ、洋子さんにも」といいかけたけれど、無駄だった。

カフェ・ルミエールの扉が開いて、洋子が入ってきたのである。

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