第156話カフェ・ルミエール楽団演奏会(3)

里奈は史の不機嫌な顔が気になった。

「ねえ、いろんな人がついてきちゃったのが気に入らないの?」

史に尋ねると、史は不機嫌な顔のまま、頷く。

「音大とか、音大の先生とか、音楽家とか興味がないんだ」

「不特定多数の人の前で弾いて、たくさんの拍手をもらう」

「そういうことが好きな人はその道に進めばいい」


奈津美も、史の珍しく強い口調が気になった。

「史君のその考えは、間違いではないよ、でもね」

奈津美は史の目を強く見つめた。

「演奏はそういう気分でやってはいけない、音楽に対して失礼になるから」


奈津美の言葉に史は頷く。

「うん、ありがとう、僕も音楽とか演奏そのものには、手抜きをする気はない」

「そんなことをしたら、ベートーヴェンとか皇帝という曲に申し訳ない」

史は、少し笑う。


里奈もそれでちょっと安心。

「じゃあ、思いっきり弾いてくれる?」

さっと史の手を握ってしまう。


「え・・・うん・・・ありがとう、里奈ちゃんも」

史は、ちょっと赤い顔。

そして奈津美にキチンと頭を下げ、階下のホールへと降りていく。


それを見送る奈津美

「うーん・・・史君も大変だ」

「演奏は手抜きはしないとは思ったけれど、少し動揺していたから、言っちゃった」


「でも、里奈ちゃんがうらやましい・・・私としては」


奈津美は、ジェラシーを感じている。

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