第127話史の音大見学(3)
史は、周囲のヒソヒソ話に困惑しながら、ピアノ科に到着した。
「じゃあ、ここだから」
岡村が数あるレッスン室のドアをノックすると、
「はい、お待ちしていました」
初老の女性が出てきた。
「内田です」
先生自らにっこりと自己紹介である。
「あ・・・内田先生・・・」
史は、内田先生の顔を見るなり、いきなり硬直状態。
何しろ、世界的に有名なモーツァルトの権威、史からすれば雲の上の人なのである。
それでも、史は必死にご挨拶。
「あの、史と申します」
「今日は、見学ということで・・・」
しかし、緊張しまくりで、それ以上の言葉が出ない。
それには、先生方三人も笑ってしまう。
「あのね、もう史君のピアノ演奏は聞いたことがあるのさ、内田先生はね」岡村
「ほら、去年のこと、コンクールでね」
榊原が目配せをすると、内田先生が話し出す。
「そうですよ、私は全国大会の審査員だけど、時間が空いていたから都内のも聞いたの、それで全国大会でもう一度聞きたいからって、都の審査員にも推薦しておいたの」
「そしたら、本番の大会には出ないしねえ・・・インフルエンザだったの?仕方ないけどね」
何の事はない、史の事情は、知られているのである。
「えーっと・・・」
史は今さら、インフルエンザのことを説明しても仕方がないと思った。
それより何より、今はレッスン室にいるという状況のほうが不安になってきた。
もしかして「何か弾いてみなさい」などと言われたものなら、ますますド緊張になる。
そもそも、音楽大学に進むとか、音楽の道に入るとか、全く決めたわけではない。
ピアノに関しては、他者の評価はともかく、母美智子の言うとおり「お習い事」の部類、ピアノや音楽は好きだけど、徹底的に学ぶとか職業にするとかの、強い気持はサラサラない。
「それで、そんなに時間がないので」
「史君」
内田先生は、何か楽譜を引っ張り出してきた。
「え?マジ?」
史の身体は硬直している。
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