第50話涼子の後任(1)

少しずつ、涼子のお腹が大きくなってきた。

マスターも、うれしい反面、不安な部分もある。


「大丈夫だよ、私が強いこと知っているでしょ?」

「それに、お客さんが、かなり増えたから、マスターだけでは無理だと思う」

涼子は、明るく言い切る。


「ただなあ・・・」

マスターは、なかなか、それ以上の言葉を言い出せない。

しかし、涼子には、マスターの考えていることなどは、すぐにわかるようだ。


「うん、マスターが考えているのは、万が一の心配と、出産後のことでしょ?」

「私の他に、もう一人、手伝いとか手元をしてくれる人が欲しいし、育てておきたいと・・・かな」

涼子はマスターの目を真っ直ぐに見た。


「うん、そうなんだ、夜の商売だしさ」

「お腹の子に、夜の商売させるってのも、どうかなあと」

「とにかく、安全第一で行きたいのさ」

涼子に言われて、マスターはようやく思っていることを口にした。


「まあ、それも、そうだねえ・・・」

「私は、マスターとならいつでも一緒にいたいし」

「お腹の子も、そう思っていると思うんだけど」

涼子は、そのお腹をさすりながら、少し考えた。

確かに大丈夫とは言いつつ、マスターの考えもよくわかる。

涼子にしても初めてのお産、不安がないとは言えない。



「そうは言っても、手伝ってくれる人が誰ってアテもないけどな」

「だいたい、涼子を超える客あしらいができる人なんて、どこにもいないんだからさ、本当に助かっているよ」

マスターは、照れくさいのか、少し横を向いている。



「もーーー!そういうことは、前を向いて言いなさい!」

「だから、マスターは女の扱いが下手って言うの!」


「変な女に引っかかったこともあるよね」

最初は笑っていた涼子の口調は、最後の言葉で少し厳しくなった。


「もう・・・その話はいいだろ・・・」

その話を言われると、マスターもつらいようだ。


そんなマスターを見て、涼子はクスッと笑った。

「まあ、その下手さ加減が心配で、押しかけたんだから」

涼子は、マスターの手を握った。


「ねえ、マスター、これについては、私に任せてくれる?」

「マスターは女の扱いは、ド下手だから・・・私には別としてね」

「だから、私たち女が人選する」

「・・・だから、私と洋子ちゃん、ひとみちゃん、奈津美ちゃん、ああ、美智子さんにも人選に入ってもらう」

涼子はニッコリと笑っている。

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