第7話史のピアノ

カフェ・ルミエール営業3日目、今日も大賑わいである。


午後4時に、史から電話がかかってきた。


「洋子さん、あの、もう少ししたら伺います」

いつもの史の声、特別に変わった雰囲気はない。


それでも、洋子は、少し不安を覚えた。

「ねえ、足、大丈夫なの?無理はしないでね」

一応は、心配の声をかける。


「はい、大丈夫です、リハビリもしなければならないですし、痛みはほとんどありません、それから、姉の由紀と合唱部の人も何人か伺いたいということです」

史は、同行者のことも伝えてきた。


「ああ、それならいいかなあ、お姉さんたちが来るんだったら」

洋子は、そこで少し安心した。

史の姉、由紀にも会いたかったし、合唱部の生徒とはアルバイトの話もしたかった。

「うん、待っています、でも、気を付けてね」

何より、史の足が心配なのが本音である。


電話があってから15分後、史と姉の由紀、合唱部の仲間らしい、女生徒が3人店に入って来た。


「あら、お待ちしていました」

「由紀ちゃん、お久しぶり、それから合唱部の皆さん、これからよろしくね」

洋子は、まず姉の由紀と合唱部の女生徒と握手、

「で、史君、大丈夫?」

史に声をかけた。


「あ、はい、一昨日よりは足が軽くなりました」

「明日から学園に復帰です、マスターから紹介していただいた医者からもOKをもらいました」

史の顔は、本当にうれしそうである。


「そう・・・うれしいなあ・・・史君」

「お祝いしないとね」

洋子は、史の笑顔を見て、ちょっと感激状態である。


その洋子に、姉の由紀が声をかけた。

「それで・・・今度の土曜日に・・・お願いがあるんです」

洋子が、由紀にふり向くと

「史君のお祝いで、このお店使っていいかなあって・・・」

由紀は「ほぼ当たり前」のことをお願いしてくる。


「あはは、そんなの当たり前、飛び切りのケーキ作りますよ、みんな協力してね」

洋子は笑い出してしまった。

しかし、由紀の「お願い」は、もう一つあった。

「それを史君にも話したら、それだったら史君もお願いがあるそうです・・・」「ね!史君!」

由紀は、史に「お願い」を言うよう、促す。


少し顔を赤らめて史が「お願い」をする。

「あの・・・ピアノ弾いてもいいですか、その日・・・」


「・・・え・・・史君、ピアノ弾けるの?」

洋子は史のピアノについては、全く初耳である。

「え?どうなんだろう・・・」

少々、不安もあり、首を傾げた。


「大丈夫です、私たちが保証します」

ためらう洋子に、合唱部の生徒たちが、後押しをしてきた。


「確か・・・全国大会でも、いつも優秀な成績をおさめる合唱部だよね」

「じゃあ、いいかなあ、今でもちょっと弾いてみてくれる?」

洋子は、全国でも優秀な合唱部の後押しを信頼してみることにした。

そして、聞きたくなってしまった。


「わ!やった!史君!」

洋子の言葉で、由紀は史の肩をポンと叩く。

そして合唱部員同士ではハイタッチまでしている。


「ありがとうございます」

洋子のOKをもらい、史はピアノの前に座った。


「それでは・・・」

史がピアノの蓋を上げると


「ガタン」

マスターと涼子が入って来た。

ピアノの前に座っている史を見て、

「ほーーーー、ついにだな」マスター

「うわー・・・幸せ!史君のピアノ聴けるなんて!」涼子

二人とも、いきなり、ニンマリである。


「え?知っているの?」

洋子がマスターに聞こうとすると

「シッ!」

唇に人差し指状態で、抑えられてしまう。

そして、史のピアノが始まってしまった


「あら・・・モーツァルトのk331?」

「え・・・上手っていうか・・・きれい・・・すごい・・・」

曲が進むにつれて、洋子は「完全ウットリ状態」になってしまった。


「ね、お客さんたちも、うっとりでしょ?」涼子

「いやー・・・知らなかったなあ・・・」洋子

「だってね・・・中学生の時ね・・・史君ね・・・」涼子

「え?マジ?・・・それで新聞部?」洋子


史のモーツァルトの演奏が終わると、客全員が総立ちで拍手。

当然、アンコールもかかり、史のピアノに合わせて合唱部が「メンデルスゾーン:歌の翼に」他、名曲を数曲、これもハーモニーが決まり、総立ちの拍手を受けた。


「ふう・・・マスターの口が短すぎ」洋子

「あはは、都内中学生コンクール1位だもの」マスター

「それで、全国大会はインフルエンザで欠場・・・」涼子

「・・・まあ、史君はいろんな顔を持つのさ」

マスターは、少し複雑な思いがあるようだ。


そんなことで、どうやら、史のピアノ演奏は、カフェ・ルミエールでは人気を呼びそうな気配である。











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