第55話 ひらめいちゃったんです。

「なかなか見ない光景だよね」

 有野が嬉しそうな顔を向けて来る。

「確かにね」

 波多野がほっそりをした足を組み換えながら、うなずいた。

「だろ?」


 床にうつぶせの姿勢で答える俺の頭、両肩、背中、腕、太もも、ふくらはぎの上には、体重が100グラム近くなった9羽クジャクの雛たちが、思い思いの姿勢で乗っている。

 

 俺が立ち上がり移動すれば、これは大変とばかり駆け足で追いかけてきて体のどこかによじ登ろうとする。

 椅子に座れば器用にジャンプして飛び乗ってくると、両手両足にずらりと並び、食事と水分補給以外はほとんど一緒だ。


10個の卵のうち9個が無事に孵化し、最後まで孵らなかったら卵は無精卵だった。産まれた当初60グラム前後だった雛たちは、スクスクと成長を遂げ、今はもう100グラムを超えてきた個体もいる。


 有野がそっと伸ばしてきた手を、小さなくちばしに突つかれた。

「俺の妹にちょっかい出してんじゃねーよ」

 しっしと追い払う仕草をすると、若干悔しさを滲ませた顔で反論してくる。

「どや顔でニヤつくな、弟かもしれないだろ」

そうかもな、とも思う。どっちでもいいよ元気なら。


「どっちでもいい、みんなめっちゃ可愛い!」

  俺の気持ちとかぶり発言をした主に目を向けると、瞳がハートマークになりそうな勢いの波多野がそこにいる。一瞬あれ?っと思った。ずっとショートだと思っていた髪が肩にかかり、小鹿のような印象が急に大人びて見える。


「なあ守野、クジャクカフェ、実現したら面白いだろうなあ」

「まあな。ただ半年もすればほぼ成鳥と同じ大きさになる。その時どうするか、だよな」

俺たちの話を聞いて、ふうん、と首をかしげた波多野が口を開いた。

「排泄の方は専用のキャッチャーでなんとかなるとして、安全面だよねえ」

有野がうなずいた。

「確かに。普通に肩乗りされただけでも、成鳥体重だと人間の皮膚はサクサク切れる」

「となると皮手した上で、手乗り限定にする? 記念撮影っぽく」

「うーん、そうすると魅力半減、な気もするなあ」

 お互いの安全を確保しつつ、大型の鳥類とホテルイノウエの魅力を同時に伝えるにはどうしたらいいか。


あー。俺、ひらめいちゃったよ。

「コスプレだ!」

「はあ?」

2人の冷たい視線が重なるが気にしない。ひらめきにはリスクが伴うものだ。

「カフェはダンジョン、お客様は冒険者だ。鍛冶屋設定の受付で、騎士、魔法使い、お姫様仕様の防具兼衣装を選んでもらう」


呆れ顔の有野が、選んだ言葉をようやく吐き出した。

「……ぶっとび過ぎ」

俺はそれを無視する。ひらめきには多少の痛みも必要だ。

「メニューはダンジョンにふさわしく、泥沼コーヒーにパンドラサンド、そして」

「もういい黙れ」

波多野から容赦ない手刀を首に受け、文字通りぐぅと黙らされる俺。


く......こんなことで引くわけにはいかない。藤宮さんに安心してもらえる居場所を、俺は作るんだ。

そこでしばし考える。


やっぱ、コスプレはダメ?

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