第23話 そしてまた未来へと続くんです。

「そこでまた、めそめそしてるんじゃないよ」

 背中へバシッと衝撃が走ったと思ったら今度は、力強い腕が首にがっちり回される。

「まったく、管理する側が涙腺の管理も出来ないでどうするんだ」

 涙で霞んだ視界の中、左に波多野、右に有野のシルエットが見えた。


「波多野ちゃんに有野くん!」

 目尻をハンカチで抑えた浅野さんがついと顔を上げた。

「ごめんねえ、こんなところで泣いちゃって……」


 波多野が俺の背中を盛大にバシバシ叩きながら、可愛いらしい声を上げる。

「浅野さん気にしないでください、この単純馬鹿の号泣見たら誰だって、つられて泣いちゃいますよぉ」

 有野が俺の肩をぐいぐい締め上げながら爽やかな笑顔を向ける。

「そうです浅野さん、こいつは真っ直ぐな男でって、まあつまり単純馬鹿ってことなんですけどね」 



 おまえらー!



 ふふっと笑った浅野さんが涙を拭う。

「本当にありがとう。こちらにお世話になったおかげで約束が守れたの」

 一瞬、?マークがふわっと浮かんだところで浅野さんが口を開く。


「うちの人がね、”俺がいなくなったこと、ジョンには内緒だぞ”って。”あいつは繊細なとこがあるから、事実を突然押し付けるな、徐々に受け入れられるのが一番だ”って」



 重い何かに遮られていた心の迷いが解放される。



「ものすごく迷ったけど、最初で最後の秘密は守ろうと思って。だから、お別れ会のことはジョンに秘密にしたのよ」

 ああそうか、そうだったのかと一旦落ち着きかけた涙腺が再び崩壊した。


「ほらまたそこで泣くー、浅野さん遠慮なくパンチ入れちゃって下さい。あ、そしたら余計泣くか」

 やんわり毒が入った声の波多野に有野が続く。

「こいつは小さいころから泣き虫だったらしく、お漏らしをしてはですね……」



 お、お、おまえらー!情報共有してんじゃねーよ!



 完全に、笑いのツボに入ってしまったらしい浅野さんが口元を抑えつつ、こぼれ出す笑顔が可愛らしい。その姿を見上げるジョンも間違いなく笑顔だ。


 目尻の涙を拭きながら、浅野さんがいたずらっぽく口を開いた。

「あのね、うちの人と前から相談してたんだけど、ジョンには弟が出来るのよ」

 俺はすぐさま反応した。

「弟さんですか」


「ええ。川辺に捨てられてしまっていた子で、1歳の保護犬なんだけどね、ジョンと一緒に仲良く暮らしてもらえたらと思って」

 少し考えてから声を出す。

「ジョンくんは社交的で遊びも大好きですし、周囲の状況を把握する能力もにも長けています。弟さんが出来たら、その能力が更に伸びると俺は思います」

「ありがとう、守野くんにそう言ってもらえたら安心ね」


 いやそんなと照れて顔をうつむけるところへ、波多野から容赦のない背中バンバンが飛んでくる。


「調子に乗るんじゃねーよ」

「わかってるよ」










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