第四話 龍神

前編 現

【龍神様の言い伝え】

 むかしむかしのことです。

 日照りがいく日も続いたことがありました。

 農作物が枯れてしまい、村人たちは食べるものがなくなってしまいました。

 病気になる人もありました。

 そこで、神様にお祈りしました。

 どうか、雨を降らせてください。

 村の人々の病気を治してください。

 神様は、雨を降らし、傷を癒し、病を治す力を持っているという言い伝えを、村人たちは知っていたのです。とても親切だった神様は、村人たちの願いを快く聞き入れてくださいました。

 村人たちと神様はとても親しくなり、それからというもの村が飢えで苦しむことはなくなりました。


 めでたし、めでたし。


               (時見町むかしばなし「雨降る村」より)



       ☆



 中間試験後は、和やかな日々が過ぎていた。(中間試験のことにはあえて触れない。)

 ゆるゆるな部活ではあるけれども、一応の目標である文化祭と秋の写真コンクールに向けて、写真部部員一同、週一で行われる品評会には、ほどほどに緩く気合が入っていた。

「明日歌の写真、なんかいつもと違うね」

「そう?」

部室の隅の長机に置かれた一枚の写真――『道』は、月のない夜に撮ったもので、向こう側は暗闇に飲み込まれていて見えない。光源らしきものは、一本の電灯の明かりだけ。今まで綺麗な青空や夜景を撮ることに終始してきた明日歌の写真とは、まるで異なる様相を呈する一枚である。

 同じ道路の写真でも、青空を背景にしたものは、今まで何度か撮っていて、彩度の調節も慣れている。今回は調節の仕方が今までのものと全く別物だった。違うと思われるのは当然だ。

「恋してるからかぁ」

 うっとりとつぶやく美月。

「なんでもそっちに繋げるのやめようね。どう考えても関係ないからね」

 呆れ顔で冷静に反論する。しかも、恋をして空が暗闇から青く晴れ渡るような心情の変化ならまだわかるけれど、逆はたぶんない。

「けどさ、今までもっとぱっと見で綺麗な風景とか、花とか動物とか撮ってたじゃん?絵葉書になりそうな。それがいきなりこの暗い道路だよ。なんかあった?」

 月並みな表現だが的確な評価。

「前に少し話した、近所に住んでる葛城さんにね、公園で少しだけ写真見てもらったの。そのアドバイスがちょうど心に響いたっていうか、なんていうかそういう感じ」

 明日歌は答えた。葛城さんは、すっかり写真の先生となっていた。部活の顧問の先生は、実際写真の技術面についてはあまり詳しくないから、そういう大人の人の存在は貴重だ。

「マジで?紹介してよ」

 予想通り、美月も食いついてくる。

「いいよ。今度一緒にいこ」

 とは言うものの、そこで明日歌は葛城さんの連絡先を知らないどころか彼には名前すら告げていないことを思い出した――次に会ったら聞いておこう。

「みーちゃん、正直どっちがいいと思う?」

「ん?今までの写真と?」

「そうだねぇ」

 少し考えてから、美月は占いの結果を告げるように少しふざけて、

「この写真には、今のあなたの本当の気持ちが表れてますね?」

 と、暗がりの『道』をびしっと指さした。それは唐突で、明日歌の精巧に整った顔は思わず笑顔に砕ける。

「ええ~?ちょっと、適当言ってない?」

「言ってない言ってない。マジだって」

 一体みーちゃんは私の本心をどういうふうなものだと思ってるんだろう――明日歌はわざとらしくじぃーっと疑いの眼差しを向けながらも、ふと考える。

 ――だって、自分でも、自分の本心なんてよくわからないのに。



   ☆

 

 明日歌・巴。風神は、生徒会会議室であれこれと議論を交わしていた。

 この頃巴は生徒会にいそしむ毎日だった。もうすぐ副生徒会長の任期が終わり、次の生徒会メンバーを選出する選挙期間が始まるらしい。

 神使を探すのは簡単なことではない。みんなが言っているように、数が少ない上に、傍目に分かるような目印は全くなく、それどころか現し世に溶け込むため、神使であることを隠す人が多い。特別な力を持つ者が、恐れ敬われる反面忌み疎まれてきた歴史を考えれば、そのような自衛機能が備わるのも納得がいくというものだ。まして神様に呪いをかけるような道に外れた神使であるならばなおさら、自らの存在を悟られないように気をつけているはず。


「けどなんだか、謎が解けたようで解けなかったです」

 明日歌は、釈然としない思いでいた。

 それは気の進む話ではなかった。明日歌たちが探そうとしているその人物は、神使ではあるとしても、おそらく仲間ではない。

「この近くに私たちの他に神使がいるかどうかって、わかるものなの?」

「なかなか……何か知っている神様がいれば……」

「そっか。風神ちゃんは、誰か知ってる人いる?」

「この街には君たちしかいないと思うよ。美波音ちゃんみたいな半人前の人間はよくいるけど、あの程度の力じゃ神様は呪えないし」

 風神は首をひねった。

「でも神域に全く来ない神使のことは、こっちから見つけることはできないんだ。だから、いないとも言い切れない」

 勝手に、神様は全能な気がしていたが、どうやらそうでもないらしい。

「その人のオーラ的なもの、とかは見えないの?」

 と、なんかそれっぽいありそうなことを聞いてみる。

「瞳にオーラの色が映ることはあるみたい。誰にでも見えるものではないけどね。でも能力の高い神使は、そういう自分の霊的エネルギーを、隠すこともできるものだから……」

 神使の生き方も能力も個々それぞれなようで、明日歌はそれらを理解するのもやっとだ。オーラを隠すなんてレベル高いな、と思う。自分なんてなんのオーラもない。ただ金髪なだけで。なんだか恥ずかしい。

「風ちゃんも、怪しい人を見かけたら報告するのよ?」

巴が小さな子に言って聞かせるように言った。

「はーい!」笑顔で元気よく、風神が手を挙げて答えた。「あ、それにしても明日歌はすごいね!一発でシーサーを清めちゃったんだからね!」

「そうかな」

 自分でも忘れていたが、確かに今日のシーサーの浄化は、とてもうまくいっていた。それこそ「簡単」とも言うべきほどに。

「すごいわよ。ちゃんと、自分がどうしたいかを神器に念じたんだね」

 と、巴も言ってくれる。照れながら、明日歌は同じ言葉を繰り返した。

「そうかな」

 ちゃんと役に立てたようで嬉しかった。

 きちんと神器を使えたことは、かなりの自信につながっていた。それは意外なほどに簡単だった。概ね思い通りに使用できていると言っていいだろう。教室で勝手に光りだすのは勘弁だが、みんなはそれもすぐにコントロールできるようになると言ってくれた。

 けれど一つ秘密があった。

 彼女が「心で本当に思ったこと」は、美波音やシーサーのことより、翡翠を早く助けたい、だった――ということ。

 そして強くそれを念じたとき、一瞬だが明日歌は泣き出したいような不可思議な感覚にとらわれた。息苦しいような、それでいて、気持ちの晴れていくような、わけのわからない衝動。

 なぜだかそのことは、心の内に秘めておかなくてはいけない気がした。



「そういえば明日歌ちゃんのその神器の持ち主があらわれないわね」

「持ち主……縁のある神様のことですよね」

「そうよ。いったいどんな方なのかしらね」

「私が未熟だから……でしょうか」

 急に不安になって、明日歌は尋ねる。

「そんなことないわ!明日歌ちゃんはもう十分立派にお役目を果たしているじゃない!」

 わざとらしく迫真めいた顔でガタッと巴が身を乗り出したので、明日歌は少しびっくりした。それから一旦落ち着いて、

「別に明日歌ちゃんのせいじゃなくて、神様の考え方はけっこう神様によっていろいろだから。神使の前に特別な時しか姿を見せない神様も多いのよ」

「僕みたいにいっつも学校に来てみんなとおしゃべりしてるようなののほうが少ないんだよ、たぶん」

 と、風神も言う。この子は毎日暇そうだ。

「そうなんですか」

 少し安心する。

「でも、なんか理由があって明日歌ちゃんを選んだんだから、挨拶ぐらいしてくれてもいいと思うんだけど……」


「お疲れ様です」

 六時を過ぎる頃、サッカー部の練習から帰ってきた翡翠がひょっこり顔をのぞかせた。やっとギプスが取れたので、まだ通常通りに動かすことはできないけれど、ブランクを取り戻すためにすこしずつ自主トレーニングを始めている。

 急いで帰る支度をすると、四人で校舎を後にした。

「調子は、少し戻った?」

 明日歌は聞いた。

「まあまあかな」

 翡翠は右腕を見て答えた。完全に吊っていなければならなかったときほど生活への支障はなくなっていた。

「試合に出るの?」

「どうかな。三年生がインターハイで引退なので、秋の大会からは出るかもしれません」

「ちょっと、見てみたいな」

 そんなことを言ってみたのは初めてだ。友達の応援というのは少しだけしてみたい。

「是非応援に来てください。ルールはわかる?」

「あんまり。みーちゃんに教えてもらうね」

「それがいいです」少し嬉しそうに、翡翠は頷いた。

「白瀬さんは、写真部では何してるの?」

「うちは緩いから、好きに写真撮ってるだけ。文化祭で展示があるから、一応それに向けて、かな」

「見に行きますね、展示」

「ほ、本当?」そんな答えが返ってくるとは思わず、明日歌は驚いた顔を翡翠の方に向け、すぐにひゅっと逸らす。「ちょっと、恥ずかしいな」

 文化祭の中でも写真部の展示の存在なんて知る人ぞ知る催しだ。そんな地味なところに来てもらうなんて気が引ける。けれど、誰かに見てもらえると思うと、ちょっとやる気が上がる気がするのもたしかだった。

「でもさ、藤村くんはすごいね。私は運動部に入ってたら、絶対、眠くてゆめなんか見れないよ」

「慣れれば全然大丈夫です」

 ほんの二週間ほどで、明日歌は知っている神様のゆめの中になら、自分の意志で行くことができるようになっていた。それはたしかに、慣れれば簡単なもので、どうやったかと言われると逆に難しいが、とにかくそういう感覚を身につけることができた。いちいち榮倉先輩の家にお世話にならなくてすむのはありがたい。

 それでもゆめをみるときは、だいたい翡翠が一緒に来てくれていたので、睡眠は足りているのだろうかと、明日歌は少し心配で、申し訳なく思っていた。

「それにまぁ、授業中はそれなりに寝かせてもらってるし」

「うそ、気付かなかった」

 明日歌は驚嘆の面持ちで翡翠を見上げた。最近知ったが彼はかなり成績も良かったし、その品行方正な態度のおかげで教師からの評判がすこぶる良かった。おそらく授業中に仮眠を取っていることはバレていないのだろう。

「私なんて、もしも間違えてゆめに行っちゃったらどうしようと思って、授業中は寝ないように必死だよ」

「偉いです」

 翡翠は口元に手を当ててふふふっと笑った。そんなしぐさはちょっと女の子みたいに見える、と明日歌は思う。なんとなく傷つけそうなので口に出しては言わないけれど。

「最近は祟り神の事件も起きてませんし、ゆっくり慣れて行けばいいですよ。初めて行くゆめには、巴先輩の家から行けばいいし、いつでも呼んでください」

 その言葉はいつも穏やかに、明日歌のことを肯定してくれた。

 しかし彼が明日歌のことをどう思っているのか、それは全く読めなかった。ただのクラスメイトにしては、この二ヶ月あまりで多くの時間を過ごしてきたはずだが、距離感はずっと同じように思えるし、口調も大体は丁寧な敬語混じりで、それはほかのクラスメイトに接するときと何ら変わりがない。ということは、自分もまた、そのうちの一人であるに過ぎないのだろうか。


 明日歌と翡翠が並んで歩く後方に、風神と巴が話しながら歩いている。(これは第三者からは巴が独りで明日歌と翡翠をつけているように見えている。)

「藤村くんと、榮倉先輩って、前からの知り合いなの?」

 何気ない質問が浮かんで、明日歌は翡翠に話しかけた。そういえば二人はどういう関係なのだろう。ただの友達、というには学年が違うから少し違和感があった。幼馴染ならありえるかも知れない。

「いえいえ、実際に会ったのは高校に入ってからです」

「そう、なんだ」

 翡翠の話し方は丁寧だが、いつも本当は何を考えているのか読めないところがある。なので今も、続けて普通に「今は俺の彼女ですよ」なんて言い出すぐらいの心づもりはしていた。

 しかし彼の話は、次に意外な事実を告げた。

「もともとは風神の友達です。先輩は人間ではなく神様側の存在なので」

「風神ちゃんの……?えっ、ていうか、なにそれ。神様側、って?」

 これまた予想外の答えに、明日歌は翡翠の方を見る。

「先輩は異国の神様に仕える『人ならざる者』なんですよ。妖のようなもの……かな?半神、とも。増えすぎた神使を減らそうと思った縁の神様に殺されかかっていたところを風神に救われて日本に来たそうです」

「えええ……」

 返答の言葉が見つからず、明日歌はとにかく狼狽した。もう生い立ちからして、明日歌の想像をはるかに超えたところから来ていて、すぐには理解できない。

「普通は逃れられないものらしいので、巴先輩は特別に運が良いそうです」

 ここ二ヶ月ほど、いろいろ突拍子もないことは経験してきたつもりだったが、またまた驚きの事実であった。それをこんな又聞きみたいに軽く教えてもらってしまい、なんだか申し訳なくなる。ちゃんと榮倉巴のエピソードに一章使ったほうがよかったのではないだろうか。

「ほ、本当なの?」

「日本にはないシステムですけど、海外では一人の神様に大勢の神使が仕えていることもあるそうで――って、あれ、大丈夫?」

 翡翠は明日歌の顔色を伺った。自分ではそこまでどうとも思っていないことが、他人にはいささか刺激が強すぎたことに、今気づいたようだ。

「ううん……びっくりしただけ」

「日本の神様はそんなことしませんから安心してください」

 安心させるように彼は付け加えた。

「何千年もの間、神使と神様は助け合ってきたんです。日本では一人の神様に対して、お使えできる神使は一人と決められているから、数が多くなりすぎるとか、そういうことはないんですよ。その分、神様との絆も強いと思います。神使を殺そうとするなんて、考えられません。神様に恨みを持つ神使のことも、理解できません」

 そう話す翡翠の口調は、いつもより少し冷ややかだった。

「神使が悪さをしたらさ、神様のほうから何とかやめさせてもらうことはできないの?」

 我ながら良い思いつきだと思い、明日歌はふと顔を上げた。

「言って聞くならもうやっているでしょう」

 と翡翠は答えた。

「縁のある神様なら、神使を殺せます。でも、神使を殺すと神様も死んでしまうんですよ。だからそんなことをするのは、本当に最悪の場合ですね」

 変わらぬ説明口調で、物騒なこと淡々と言う。

「ああ、そんな決まりまであるんですね」

 と、結局明日歌の提案は、今回の事態が極めて異常だということをさらに強調させただけだった。

「神使はその人格や素質を神に認められてなれるものだから、殺される理由がないんだけどね~。迷わし神とシーサーに呪いをかけた神使は、ほんとにいったい何があってこんなことをするんだろうね」いつのまにかすいーっと空中を飛んできた風神が横から言う。

「僕が知っている中で、神様が神使を殺した例は、神使と神様が恋愛感情で結ばれたときだけだね。それだけは禁忌。絶対ダメなんだよ」

 それも初めて聞く話だった。いろいろと、決まりがあるものだ。

 神様と人間が恋をする?神様といえば風神や迷わし神のような童子の姿の者か、シーサーや祇願兎様のような獣のような姿の者ぐらいしか知らない明日歌には、いまいちピンと来ない話だったが、おそらくは、人の姿に似た神様もいるのだろう。

「風神ちゃーん?なになに、みんなしてなに話してんのー?」

 後ろからご機嫌なスキップで巴が近づいてくる。そんな彼女はどんなときでも正々堂々、勇猛果敢、明朗闊達で優美高妙な完璧超人である。どこにも、命を狙われていたような暗い過去を思わせる素振りがなかった。そのうえ、どこからどう見ても人間だった。

「今聞いた話は秘密でね、明日歌ちゃん」

 片目を閉じ、ぴっと人差し指を立てる先輩。

「聞こえてたんですか」

 どきりとして、明日歌は巴の顔を見た。巴先輩は別段気にしているようではなく、面白そうにくすくすと笑った。

は耳がイイのよ。海の向こうじゃ、ワルキューレって呼ぶんだけどね」

  

        ☆



 自分の世界はすっかり変わってしまったと、明日歌は思う。

 次々と、現し世のものとは思えないようなことが起こる。

 ビーフシチューの人参をすくいながら、明日歌はこの二ヶ月の出来事と巴先輩の正体について思いを馳せていた。

 神様と神域の存在が、日常に溶け込もうとしている今、正直、巴先輩が神様に近くても、妖怪だとしても、納得してしまっている自分がいた。だってよく考えれば、彼女は完璧すぎるのだ。それこそ人間離れしているとも言うべきほどに。

「明日歌ちゃん、今日は静かねぇ」

 既に夕食を終えた祖母が向かいの席でそう言った。少し驚いて、その顔を見る。

「私、そんなにいつもおしゃべりだっけ」

「口数は、確かにいつも少ないかも知れないわね。でも今日は、心が静かだわ。何か思っていることがあるのでしょうね」

 頬杖をついて見透かすような、澄んだ蒼い瞳でお婆ちゃんは微笑む。こうして毎日顔を合わせるようになったのはつい最近のことだが、それ以前から、たまに会っただけでも、こちらの思っていることを読んでいるかのように感じられることがあった。

「ねえ、おばあちゃん」

 少し間を置いてから、思い切って聞いてみる。

「おばあちゃんって不思議なこと結構信じる人だよね」

「不思議なこと?」

 お婆ちゃんは首をかしげながら聞き返した。うん、と明日歌は頷く。

「妖精とか、幽霊とか、宇宙人とか、……神様……とか」

「そうねえ。信じているわ」

 確かな口調だ。

「それって、なんで?見たことあるの?」

「見たことないわ。どうしてかしらねえ。言われてみれば」

 お婆ちゃんは、そう言うと、さっきとは反対の方向に首を傾けた。

「でもこの世界は、自分の目に見えるものだけが全てじゃないと思うのよ」

「私も、それは思う」

 実感を込めて、明日歌は頷く。お婆ちゃんはその様子を見て優しく微笑みながら、

「あなたもお母さんと同じことを聞くのね」

 と静かに呟いた。

「お母さんと?」

 予想していなかった言葉に、思わず聞き返した。お婆ちゃんの口から、明日歌の母親・エリスの話が出るのは、初めてだと思われる。

「ええ」

 薄い蒼色の瞳はきらりと輝いた。

「そうなんだ」

 エリスが明日歌と同じ質問をした理由はわからないが、神使の素質は家系による要因が強いことを、明日歌は思い出す。

「エリスは小学生ぐらいの時にそんなことを聞いてきたけれど」

 お婆ちゃんは少し笑う。

 部屋に飾られている高校入学式の写真を見るにつけても、エリス・カーライルは割と大人っぽい雰囲気の少女だった。だからといって、小学生のエリスと高校生の明日歌の精神年齢が同じだということはないと思いたい。

 それにしても、神器の指輪のもともとの持ち主である母親は、本当に神使だったのだろうか?巴や風神がその可能性を示唆した時は、それはいささか飛躍した考え方だと思っていたけれど。

「この指輪、お母さんはどこでもらったのか知ってる?」

 明日歌は小指の包帯を見せて言った。しかし、祖母は寂しそうに微笑むと、首を横に振った。

「いいえ。その指輪のことは、エリスは私にもずっと秘密にしていたのよ。ちょうどそんなふうに隠してね。だから私もずっと気付かなかったの」

「そうなんだ……」

「あの子ったら、何も言わないんだものね……」

 それ以上聞かなかった。母親のことは、知る機会があればもちろん知りたいが、そこまで問い詰める必要もないと思う。それに前向きに考えれば、お婆ちゃんは指輪のことを知らないというわずかな情報は得ることができたとも言えるし十分だった。

 明日歌が夕食を食べ終わるのを見届けてから、お婆ちゃんは言った。

「何か悩んでることがあったら、おばあちゃん聞くから」

 今までお父さんと二人で暮らしていた明日歌にとって、その言葉はありがたいものだった。別に仲が悪いわけではなかったが、朝早く出勤し、夜遅く帰ってくるお父さんが、いつも忙しいことはわかりきっていたし、さすがに学校であったことをいろいろ相談というと、それはまた話が別で、なんとなく遠慮の壁があったから。

「ありがと。大丈夫。ごちそうさまでした」

 明日歌はにっこり笑って言葉を返し、自室へ戻ろうと席を立つ。

「あそうそう。おばあちゃんね」思い出したように、お婆ちゃんは言う。

「宇宙人は信じてないわ」

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