第7話 内容 ないよう


「あっ、あの!」

「ん?」


 俺は、そのままスタスタと歩いている男性を後ろから呼び止めた。


「さっ、さっきの話は……一体どういう……意味でしょうか?」

「さっき?」


「あの、君はかなり表情が豊かな人だよ……って言う言葉の意味です」

「あー……言葉のままの意味だよ」


「えっ、言葉のまま……って」


 そう言われても、俺としては心当たりがない。


「君は、自分が思っている以上に表情にも出やすいし、感情も出やすい。よく他の人に「思った事を言い過ぎ」とか言われないかな?」

「そっ、それは……」


 面と向かって言われたことは無いが、心当たりは実はあった。


 思わず出てしまった言葉を訂正出来ればいいのだが、出来ない事もあり、その度に、あの人がフォローを入れてくれたことが何度かある。


 俺は、あの人が回りくどい言い方をするから……と思っていたが、どうやら俺は俺で「素直過ぎる」らしい。


「まぁ、素直な事が決して悪いっては言っていないよ。むしろ、良い事だと俺は思っている。だけど、やっぱり言い方なのかなぁ。それ一つで相手に与える印象は、大きく変わっちゃうから」

「言い方……ですか」


「そう。思っている事を言うにしても……さ」

「まぁ、そうですね」


 どうやらこの人はこの時代の人にしては、かなり人の事を気にする人の様だ……。


 それに、最初は勘違いだったとはいえ、その間違いに気づいた後でも俺と平然と喋っている。


 そう、普通であれば自分の勘違いとはいえ、それに気が付いた場合。「すみません。人違いでした」と一言ひとこと言われていなくなるものだ。


 だが、この人は……どういう訳なのか、俺と何事もなく普通に歩いている。


 すると……


「そういえば、俺も聞きたい事があるんだけど」

「……なんでしょう」


 今度は、男性が俺に質問をしてきた。


 ただ、質問の内容によっては、返答に困るモノや、後々自分の首をめかねない回答をしてしまうモノもされる可能性は、十二分に残っている。


 一応、俺がこの時代の住民でない事はバレてはいないみたいだが、出来れば「どこから来た?」など個人を特定できそうな質問は避けたい。


「君……なんであんなところに倒れていたの?」

「えっ? 俺……倒れていた……なんて言いました?」


 俺の記憶が正しければ、そんな事を言った覚えはない。その証拠に男性は首を左右に振り、否定した。


「いや、言われていないけど……だって君。怪我していたからさ。あの怪我の出来方は、倒れたぐらいしないと出来ないな……って思ったから」


 男性はそう言って、俺の包帯を巻いている腕を指した。


 なるほど……。


 そこまで言われれば納得である。確かに、あの傷の出来方は『草』で切らないと出来ない様なモノだ。


 それにしても、よく見ている。でも、この人……本当にこの辺の人なのだろうか……。


 確認をしていないので何とも言えないが、この辺りは『農作業』が盛んなはずだ。だが、この人の身なりを見ていると、どうにも『お百姓さん』には見えない。


 それに、かまくわを持てるほどの『筋力』もなさそうだ。つまり、彼はいわゆる『もやしっ子』に俺には見えた。


「はい……。えっと、実はあなたのおっしゃる通りでして……。俺はあの場所で倒れていたんです」

「……そうだったんだね」


「はい……」

「でも、仕方ないと言えば仕方ないかな……」


「そうなんですか……。えっ?」


 どうして、彼は「仕方……ない」と言ったのか……この時の俺は、何気なく平然と答えた男性を目の前にして、困惑していたのだった。

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