第4話 専用 せんよう


「おー、なんだ? そいつら」

「あら、起きたのね」


 お店の中に入ると、僕たち目の前にいたのは一人の『少年』だった。


「……起きたのね。じゃねぇよ、さすがに昼過ぎていれば起きてるっつーの」


 僕の中での普通では考えられないこの言葉遣いは、今は置いておくとして……。


 この少年は、おっとりとした『少女』と違い、凛とした表情が印象的で、その見た目は『洋風』に見えた。


 ――でも、そう見えたのは、彫りの深い顔のせいだろう。


「あらら、そうだったの」

「そうだよ。つーか、誰だ? そいつら」


「ああ、さっきお店の前にいたのよ」

「……へぇ。って、ことはここがどんな店か知っているって事だよな?」


「そういえば、先ほどこのお店の事をお母様から聞いたと言っていたわよね?」

「あっ、はい」

「クゥーン?」


 少年の問いに、扉を閉めながら少女は先ほど舞さんが言っていた言葉を思い出したように尋ねた。


「あっ、えと……昔はこういった外見のお店に、よく行っていた……って聞いたんです」

「…………」


 あっ、誤魔化した。


 多分、舞さんはあまりその事に対して深く追求して欲しくなかったのか、明らかに誤魔化ごまかしていた。


「あらっ、そうなんですね。でも、お母さまが買い物をされていた時も、こういった外見のお店はかなり珍しかったのでは?」

「うーん。どうだったんでしょう? あっでも、今はあまり見ないかも知れないですね」

「…………」


「それにしても、ここは色々なモノが置いてありますね」

「そうかしら?」


「おい、自分の店でありながら分かってなかったのかよ」


「だって、他のお店に行ったことないし」

「あー、そうだったな。でも、さすがに骨董店で『オーダーメイド』で作ったり、『名前』を彫ったりとかしねぇだろ」


 少年の言葉に僕は思わず感心した。


 なぜなら、僕の思っていた『骨董店』は元々置いてあるモノを販売している事が多く、『古いモノ』という限定した……というイメージがあったからだ。


「なんですか? その『オーダーメイド』って」


 しかし、それ以上に聞き慣れない言葉あったのだろう。どうやら舞さんは、その横文字の方が気になったらしい。


「あら、知らないの?」

「はっ、はい。すみません……無知で」

「ん? いや、別に怒っている訳じゃねぇよ。そうだな、例えば……」


 少年は、なだめる様に近くにあった布が巻かれた『棒状』のモノを取り出し、目の前に広げて見せた。


 その布には可愛らしい模様の『藍染め』が施されている。


「こういった布を使って、その人や動物、他にも『物』も含まれるが、そう言ったモノ人独自の……まぁ、『専用モノ』って事だな」

「えっとそれってつまり……」


「どうかしたの?」


「あっ、いえ。これを使ってハチの専用のモノを作れるのかな……って思って」

「……はっ?」


 舞さんの突然の言葉に思わず、少年はその場で固まった。

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