第3話 和風 わふう


「ここみたいだね」


 そう言って舞さんに促され、僕は目の前にある『建物』を見上げた。


「クゥーン?」


 その外見を見た瞬間、僕は思わず驚いた。


 なぜなら、そのお店は舞さんがいつも行くような『洋風』とは、全くの真逆の『レトロで和風』な外見だったからだ。


 確かに、場所によっては、まだこういった『和風』かつ『レトロ』な建物は存在している。


 それに、日本が……いや、世界が慌ただしかった頃はまだそういった『和風』な建物もあったが、今ではそういった建物は、目に見えて減っている。


 僕は自分の見た目と目の前の建物を見比べながら、一人で「僕の容姿ならこの建物に似合っているけど……」と自虐していた。


 そう、僕の見た目はどう見ても……『和風』だ。


 いつもはあまり気にしていないけど、一旦気になると引っ張られてしまう。その証拠に、僕は自分の中でグルグルと自問自答を繰り返していた。


 すると―――。


「あら? 可愛らしいワンちゃん」

「えっ?」

「ワフ?」


 突然、僕たちに声をかけてきたのは一人の『少女』だった。


 しかも、これまた着物に黒く長い髪……という『純和風』な装いのその人は見た目は、舞さんより少し年上に見える。


「うふふ、お利口りこうさんねぇ」


 そう言いながら少女は着物が汚れることも気にせず、両膝りょうひざを地面につき、僕の頭や首をでた。


 でも、実は僕たちに限ったことじゃないと思うけど、あまりでまわされるのは好きではない。


 つまり、『触りすぎる』のが嫌いなのだ。


「…………」


 しかしその少女はあまり強くは触らず、むしろウットリとしてしまうくらい、この少女の触り方は優しかった。


「あっ、あの……あなたは?」


 舞さんは突然現れた『少女』に最初は呆気あっけに取られていたけど、すぐさま尋ね返した……。


「うふふ、可愛らしい柴犬しばいぬちゃんね。あっ、ごめんなさい」


 しかし、僕に夢中だったからなのか、舞さんの声が聞こえていないよう見えていただが、少女は少々しょうしょう名残なごりしそうに「ヨイショッ」と立ち上がり、膝についた砂を軽くはらった。


「えっと私は、この店の女主人なんです」

「えっ、そうなんですか?」


「ええ、そうなの。それにしても……」

「はい?」


「どうしてこのお店に?」

「あっ、実は……このお店の事を昔、母に聞いた事があったんです」

「!?」


 僕は、思わず舞さんの言葉に反応した。なぜなら、その事は初めて聞いたから……。


「あら……そうなんですか。あっ、立ち話もなんですので……」


 そう言って、その女主人さんはガラガラと扉を大きく開けた。


「どうぞ、中へお入りください」

「あっ、じゃあハチは外に……」


「いえいえ、ワンちゃんもどうぞ」

「……えっ、いいんですか?」


「はい」


 女主人は、おっとりとした雰囲気で、驚いている舞さんにそう返した。


「じゃっ、じゃあお言葉に甘えて……」


 まぁ、ここの主人だと言っている人が「入っていい」と言っているのだから、こちらが拒否するのもおかしな話だろう。


 舞さんは、少し緊張した面持おももちで、僕も一緒に「おいでおいで……」と手招きしている『女主人』に促されるがまま、お店の中へと入って行った。

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