第4話 断崖 だんがい
「……うわぁぁぁぁぁぁぁー!!」
突然、聞こえた悲鳴に少年は思わず体をビクッとさせた。
「!?」
その周りにいる人間も思わず驚いてしまう程の悲鳴を上げた俺は、下手にも足を滑らせ、崖から落ちそうになっていたのだ。
この崖は、今で言う「2時間のサスペンスのラストに持ってこい! 」と思えるほどの崖だった。
つまり、この崖はかなり急だ。
ここから見える景色は、とても素晴らしいモノではあるのだが、それはあくまで天気がいい時の話である。
雨上がりで、厚い雲が空を覆っている今日のような天気では、この崖の魅力は半減どころか、もはや動かぬ『凶器』だ。
だが、俺だってそんな動かぬ『凶器』を前にしたところで、何も抵抗せずにただ死ぬつもりは毛頭無い。
だから俺は、決死の思いで腕を思いっきり伸ばし、崖の出っ張っている部分を掴んでいた。
よく言われる「景色が良い」「絶景」という言葉は、それと同時に「危険も伴う」という事だと……本当にそう思う。
しかも、時と場合によるのだと……言うこともこの時になってよく理解していた。
「っち! なにしてんだっ!」
少年は、落ちそうになりながらも、必死にすがりついている俺の元へと足を滑らない様に気を付けながら近寄った。
「くっ! このっ!」
しかし、俺が掴んだ場所がよくなかったのだろう。
俺が掴んだ場所は、ゴツゴツとした岩が多いが、掴むには手を怪我しそうなほど尖っている。
「っ!」
「くそっ!」
このままでは落ちるしかない……もはや諦めそうになっていた。
雨上がりのせいで、掴んでいる場所は滑るし、掴んでいる手は、ほとんど感覚がない。
これでは、力を入れているのか入れてないのか、それすら分からない。
しかし、このままの体勢でいるのは……と考えた俺は体勢を立て直そうとした瞬間――。
「……あっ!」
その時、なぜ俺はちょっと気を抜いてしまったのか、後悔したかったが、そんな暇もなく俺は文字通り手を滑らせ、そして『死』を覚悟した瞬間。
なぜか一瞬浮いたような感覚になり、その感覚に恐怖を覚え、思わずこの後にくる衝撃に身構え、思いっきり目をギュッと閉じていたのだが……。
「……??」
いつまでもそういった衝撃の様なモノが一切なく、その代わり俺は片方の腕を引っ張られ、体は宙に浮いているような感覚になっていた。
「……おい」
「えっ? にっ、兄さん……?」
声をかけられたことによって、俺はようやく「誰が」腕を引っ張っているのか理解し、それと同時にあまりの気まずさに思わず下を……見て……しまったのだ。
「あっ……」
こういった場合。下を見るのはご法度である。下を見てしまうと、恐怖心が増してしまうのだ。
その証拠に、俺は下に広がる光景に顔を青ざめさせた。
「はぁ、引き上げるからそのままでいろ……。暴れるなよ」
兄さんは、出来る限り俺を刺激しないように、そして出来るだけ冷静に……努めていたのだろう。
でもまぁ、この時の声は人によっては「冷たい」と言うかもしれない低いトーンで、俺は「暴れるな」要するに「動くな」というさり気ない『言葉の釘』まで刺されていた。
「…………」
しかし、俺としても、こんな場所と状況で落ちるのは、絶対に嫌だ。
だから、俺は特に「暴れる……」いや、むしろ何もせず、黙ったまま兄さんに引き上げてもらった。
それにしても……ここ最近、俺は災難続きだ……そう思いながら、ようやく地に足を付け、生きている事を実感したのだった……。
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