第4話 歳暮 せいぼ


「私が、その『骨董店こっとうてん』を訪れた時の季節は冬で、今まで育った『田舎』の寒さと『都会』の寒さは違ってね」

「……? そうですか?」


「ふふ。あくまで『自分の感覚』だから、あなたは……あまり感じないかも知れないわね」


 私は、前に『田舎』に住んでいた時も当然、冬を経験はしている。


 しかし、改まって『田舎』と『都会』の寒さの違いと言われても、正直ピンとはこない。


 でも、母はあくまで『自分の感覚』と言った。そう言われれば、個人の感覚の話である。


「まぁでも、当時の私は人付ひとづいも苦手でね。だから、当時の私にとって『都会の冬』は、尚更なおさら寒く……感じたのかも知れないわね」

「…………」


 今でも母は、あまり人の中心に立つのは好まない。その代わり、人を支える。そういった事の方が好きらしい。


 要するに、母はいわゆる『縁の下の力持ち』というやつだろう。


「しかも、その時の冬は冬でも『年のれ』でね」

「年の……れ? 」


 私は、母の聞き覚えのない言葉に「クエスチョン のマーク」を付けて思わず聞き返した。


「ええ。分かりやすい言い方をすると『年末の時期』ね」

「えっ、年末の……そんな時期に訪れたんですか?」


 母が言い直した言葉に驚いた。なぜなら、『年末』という事は十二月の終わりという事である。


 つまり、その年の最後。普通であれば、家族で過ごすはずである。


 そもそもそんな時期に、営業しているお店も……デパートじゃないのであれば、かなり珍しい。


「まぁ、私もそんな年末の時期に営業をしているのが珍しいなぁ。そう思って気になったんだと思うわ」

「確かに珍しいですね。それで、入られて……この『蛍雪けいせつしずく』ですよね? これを買われたんですか?」


「ええ。でも、その『骨董店こっとうてん』も珍しかったのだけど、それ以上にそこにいる『従業員』って言えばいいのから? とりあえず、そこにいた人たちがね。とても不思議な人たちだったのよ」

「不思議……ですか?」


 確かに、『骨董店こっとうてん』自体この『都会』と呼ばれている場所では珍しいだろう。


 しかし、それ以上に『不思議』と呼ばれるその『従業員』の人に私は興味がわいた。


「…………」

「まぁ、とりあえず『彼女たち』の話をしようと思ったら、やっぱり私があの『骨董店こっとうてん』に入った時の事から話をしないといけないわね」


 母は、その『従業員』の人たちに興味を持ったようだと、私の様子から気が付いたらしい。


 しかし、母はその事をわざわざ私に言う事も無く……。ただ飲み干してしまった緑茶りょくちゃ湯呑ゆのみに注いでいた。


「その時は、あまり雪が降っていない状態だったんだけど、その『骨董店こっとうてん』の看板にね」

「はい」


「それでね、看板に少し雪が積もっていたの」


 まぁ、雪があまり降っていないというだけで、全く降っていない訳じゃないから……そりゃあ積もるだろう。


「その看板を見ていた時に今でもよく覚えているんだけど、突然引き戸を開けて1人の少年が現れてね「なんで俺がこんな目にー!」って叫んだのよ」

「えっ」


「いきなりの叫び声に私は驚いてその場で固まってしまっていたの。そしたらね。叫び終わってその少年が「ふぅ……」って一息ついてところでちょうど雪が落ちてきたのよ」

「えぇ」


「それがね。ふふ、未だに『印象的』で」

「それは……確かに『印象的』ですね」


 その時の、状況に出会ったわけでもないのに、私は母からその話を聞いた時、思わず想像してしまい、小さく笑いながらもなんとか返事を母に返した――――。


 確かに、その時の少年の姿は……『お間抜け』という意味ではかなり『印象的』だっただろう。


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