第8話 会話 かいわ


「うーん……」


 母との会話の後、私は自分の部屋へと戻っていた。さっきの会話でお爺様の言っていた事が何を指していたのかは、理解出来る。


「でも……」


 なぜ、私や樹利亜じゅりあお婆様にそっくりな人が、その『骨董店こっとうてん』で商売をしているのか……。


 それに、樹利亜じゅりあお婆様と関係のある人がなぜかその『骨董店』で何かしらを購入している。


 しかも、その『関係のある人』はお母様やおじい様の様に『家族』という訳でもない。


 それは、母がさっき言っていた言葉で分かった事だが……。


『そういえば樹利亜じゅりあお婆様も……いえ、あれは確か従業員の方だったかしら。確か、その人もあの『骨董店こっとうてん』で何かを買った事がある……とか聞いたことがあるわ』


「それって、どういう事だろう?」


 ここまであの『骨董店こっとうてん』が私の家族……いや、『家』に関わりがある。という事があまりにも不思議で仕方がなかった。


恵美里亜えみりお嬢様。どうかされましたか?」

「わっ、わぁっ!」


 突然声をかけられその場で体をビクッとさせ、飛び上がった。


「もっ、申し訳ございません!」


 しかし、私の反応が予想外だったのか、美紀子みきこさんも私と同じように体をビクッとさせながら勢いよく頭を下げて謝った。


「あっ、美紀子みきこさん」

「どうかされたのですか? 先ほどから声をかけていたのですが、返事がおざなりになっておいででしたので」


「えっ、あっ……すみません。ちょっと考え事をしていたもので」

「そうですか」


 いや、でもさすがに……何も知らない美紀子みきこさんに、あの『骨董店』の話をしても意味は無いはずだろう。


「そうですか。あまり無理をなさらないでください。もうお休みになられるお時間ですので」

「えっ、もうそんな時間!?」


 美紀子みきこさんの言葉を聞いて、思わずバンッと勢いよく窓を開けて外を見てしまった。


「はい。旦那様がこの時間にまだ電気がついているから……と心配そうにおっしゃられておいででしたので」

「えっ、お父様が?」


 思わず開けてしまった窓を閉めながら、美紀子みきこさんの言葉に耳を疑った。


 そう、父はそう言った事を普段はあまり口にしない。本当に今日は、本当にお父様やお母様の色々な一面を知る日である。


 そのキッカケが『蛍雪けいせつのしずく』であり、あの『骨董店こっとうてん』だ……。


 でも、そうなると、やはり「あの『骨董店こっとうてん』には何かあるのでは?」と思ってしまう。


「あの、美紀子みきこさん」

「はい?」


「確か、お父様の名前は『ほたる』と書いて『けい』さんでしたよね?」

「はい。そうでございます」


「それで、お母様の名前は……」

「奥様は『ゆき』と書いて『せつ』と読まれるそうです」


 なんでこんな大事な事を忘れていたんだろうか……。


恵美里亜えみりあお嬢様は、普段はあまりご両親の事をお名前で呼ぶことがありませんから、忘れてしまうのも致し方ないかも知れませんね」


 美紀子みきこさんは「致し方ない」と言ってくれた。が、本来であれば娘が両親の名前を忘れる事は大問題だ。


「そういえば昔、奥様から聞いた事があるのですが」

「はい?」


 美紀子みきこさんは何かを思い出し、内緒話をするように目線を私に合わせた。


「実は、奥様のお母様。恵美里亜えみりあお嬢様から見て母方の祖母に当たる方のお名前は『しずく』だったと」

「えっ……」


 さっきの話で母は、その事は一切言っていなかった。しかし美紀子みきこさんは、確かに「お母様から聞いた」と言ったいたはずだ。


 これに私は、美紀子みきこさんの言葉で、さらに『骨董店こっとうてん』の不思議に驚いた。


「どっ、どういう事?」


 結局のところ、私自身が直接その『骨董店こっとうてん』に来店し、その人を目にし、自分の中で結論づけるまでずっと胸の中に『引っかかり』として残る事になる。


「…………」


 そうこれは……私に顔がそっくりの孫が生まれる少し前の……いや、もっと先の話だ――。

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