第3話 変化 へんか


「あっはははっは! 広幸君ひろゆきくんめっちゃ似合うー!」

「賢く見えるよー!」

「はははっ!」


「……うるっせぇよっ! お前ら! 」


 俺は、本当によく耐えたと思う。


 いや、分かってはいた。こうやって茶化ちゃかされる事もよく分かっていた。


 ただやはりいきなり登校するなり、クラスメイトたちに大笑いされるのは……分かっていてもやはり微妙な心境だ。


 しかし、実は今日眼鏡をかけるのを一瞬ためらっていたのだが……。


 でも俺自身も、あさひの髪形に笑う事もあった……。ただ、あのロン毛はさすがに笑った。


 だからこの際、笑われても心境は微妙でもどうとも思わない。そして、こういった友人たちに『笑われる事』は、時間が経てば俺も慣れる。


 ちなみに、あさひの場合はあまりにも似合わないと自分でも思ったからなのかすぐに髪切って元に戻してしまったから、あんまり笑いのネタにはならなかった。


「いやー、何度見ても笑える……」

「アハハ! ハハ……ゴフォゴフォ」

「おい、いい加減慣れろ。つーか、お前はむせるな」


 ただやはり眼鏡をかけたその日は休み時間になる度に、友人のあさひたちは笑い続けた。しかも、笑いすぎてむせているヤツまでいた。


「なぁ、広幸ひろゆき

「? 何だ?」


「なんで突然、眼鏡なんて買ったんだ? 視力、悪くなかっただろ?」


 しかし、こういった質問が飛んでくるのも、分かっていた反応である。しかし、そういった質問よりも先に『笑い声』が飛んでくる当たり、実に俺たちらしいと思う。


 でも、さくらに買ってもらった……。なんて事まで言ってしまったら、それこそさくらの言う『変な噂』がたっちまうだろう……。


 ただまぁ、ない頭を使う……とはよく言ったモノで、普段『言い訳』ということをあまりしたことのない人間にとって、『言い訳』を考える……ということだけでも実は、かなり頭を使うという事をこの時、完全に忘れていた。


「おーい、ひーろゆーきくーん。大丈夫かぁ?」

「……最近、ゲームのしすぎで視力が落ちた」


「お前、ゲームド下手だからやらないって言っていたのに、面白いゲームでも見つけたのかよ」

「はっ? 別に何でもいいだろ」


 あさひは、俺がゲーム苦手……というか、超が付くほどド下手だと言うことを知っている。


「……いや、珍しすぎんだろ」

「まっ、まぁ苦手なモノをそのままにすんのも……ってな」


 でも確かに、良いゲームがあるのは俺にだって分かる。それに、ネットやテレビなど取り上げられ、かなり好評を受けているモノも中にはある事はよく知っている。


 ただ、まぁ俺がただ単に下手で「ここからおもしろくなる」と言われているところまでいかないのがちょっとした悩みで、俺がゲームをしない理由である。


「へぇ、本当かぁ?」

「……本当だ」


 特に付き合いの長いあさひには不審そうな顔で聞かれたが、俺はかたくなにその嘘を突き通した。


 ただしばらくすれば、何事もないゆっくりといつも通りの毎日を送れる……そう思っていた……はずなのになぁ。


 残念ながら、俺の思いとは裏腹うらはらに、その茶化される期間が終わっても全然ゆっくりと毎日を送れていなかった。


 しかし……実はそれには、『ある理由』があった。


「あっ、あの!」

「ん? 何?」


 なぜかこの眼鏡をかけてからほとんど顔も知らない女子生徒に声をかけられることが多くなっていた。


 ただまぁ……声をかけられているのに無視をする訳にもいかないので、失礼のない様に俺の中で考えられる大人な対応をしていた。


「なっ、なんか広幸ひろゆきに声かける女子……増えてね?」

「やっぱり、あさひもそう思うか?」


 しかし俺は元々、女子と会話をすることがなかったわけではない。ただやはり、眼鏡をかけ始めてから周りはもちろん。自分でも違和感を覚えるほど増えていた。


「つーか、さっきの話も別にお前じゃなくても良かったんじゃね?」

「それは俺も思った」


 しかも、話かけてくる人の大体は、わざわざ俺に聞かなくてもいい内容がほとんどだ。


「まぁ、でも俺としては『マドンナ』様にお声をかけて欲しいモノだなぁ」

「ああ、いたな。そんな人」


 あさひはその『マドンナ』とはたった一度だけ、話をしたことがない。しかし、その時のことを思い出したのかうっとりとした顔で旭は、その思い出に浸っていた。


 それを考えると……こいつもかなり『お幸せなヤツ』だと思う。そういえば、その『マドンナ』はさくらと同じクラスだったはずだ。


 たまにプリントとかで、書かれたクラスがさくらと同じだったことを思い出した。


「なぁ……広幸ひろゆき。眼鏡かけただけだろ?」

「ああ」


 当然、俺は驚いていた。俺自身、『イメージチェンジ』というつもりでこの『色眼鏡いろめがね』をかけている訳ではないのだが……。周りからそう見られても仕方がない。


「……俺もかけようかな」

「止めとけ、ぜってぇ似合わねぇから」


「えー、でも明らかにその眼鏡をかけてからモテ始めただろ?」

「そんなこと、俺に言われても知らん」


 しかし、あさひの言う事もごもっともだ。だが、なぜか変化し始めた日常に戸惑いを覚えながらも、俺はなんとか毎日を過ごしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る