第12話

 花降月になった筈の日の朝。暦が花降月に変わっていない事に気付いて、カミルはすぐに己が十三月を迎えてしまったのだという事に気付いた。

 そうとなったら、ぐずぐずしてはいられない。すぐに旅の支度を整え、使えそうな魔道具をいくつか持ち、そして親方のヴァルターに手短に事を告げると、そのまま北の霊原を目指して旅に出た。

 北の霊原を目指した理由は、テレーゼ達とほぼ同じ。人の多い場所で魔道具を使って戦えば、関係の無い人達に迷惑がかかってしまう。十三月の狩人に狙われているだろう己や、テレーゼ達の住居がある土地は危険。南の砂漠で一ヶ月生き延びる自信は無い。

 それに、北の霊原には魔族や精霊が多く住んでいる。レオノーラがカミル達よりも十三月の狩人について知っていた事から、魔族や精霊もその知識を多く持っている可能性がある。ならば、北の霊原を訪ねれば十三月を乗り切るための方法を得る事ができるのではないだろうか。

 出掛ける時に、ヴァルターにはテレーゼ達への伝言を頼んだ。己は北の霊原へ行く事。もしテレーゼ達も十三月の狩人に狙われているようなら、北の霊原で落ち合いたいという事。その二点を。

 流石にレオノーラは心得ていて、カミルが十三月を迎えてしまったという事をすぐに理解してくれた。

 魔道具を活用して北の霊原へと向かう道をまるで石畳の上を歩くかのようにサクサクと歩き、十三月の狩人から実際に襲われた時には結界を張ったまま歩き続けて。

 魔力の補充でレオノーラにはやや無理をさせてしまったが、お陰でそれほど時間がかからないうちに北の霊原へと辿り着いた。

 北の霊原に来る人間は珍しいため、魔族や精霊達がカミルを見物しにやってくる。そこで集まった者達に事情を話してみれば、人間よりも簡単にその話を信じてくれる。

 十三月の狩人に関して彼らに伝わっている情報、十三月を乗り切るための拠点となる宿屋、魔道具を製作、補強、修理するための道具や材料を得る手段、宿代を稼ぐ手段として魔道具を欲しがっていたり修理して欲しがっている客など、様々な事を教えてくれた。

 そうして、宿の一室を工房として借り受けて、魔道具職人として宿代を稼ぎながら投宿していたところ、七日目になってレオノーラが言ったのだ。

「テレーゼ=アーベントロート様、フォルカー=バルヒェット様の気配が感じられますわ。お二人ともこちらに向かってきているご様子なのですけれども……どうやら、随分と疲弊なさっていますわ。このままでは、十三月の狩人と戦えるのかどうか……」

 そこでカミルは、いくつかの魔道具を持って宿を飛び出した。二人の友人を、迎えに行こうと。

 そして、レオノーラに気配を探ってもらい、森に踏み入ったところで、二人が十三月の狩人に襲われているらしい場面に出会う。そこで、話は二人と合流したところに繋がった。

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