10-10 幕引き

 沼田は訝しむ。


 「ええ……それは、次の計略が成功するかどうかでございましょうか。」


 為信は首を振る。身を乗り出し、耳元で囁いた。


 「……私が、地獄に落ちるか否か。」





“いや……のような占いは初めてです”


“だろうな”




 沼田はその場から退き自室へと戻る。しばらく蓋がされていた、埃かぶる八卦の道具。あけ放つと、古めかしい匂いが辺りへ広がる。




 占いは、始まる。筮竹を持ち……為信は竹のこすれ合う音を聞く。



 …………


 本掛、天地否。





 本来の意味でとらえれば“停滞” を意味し、”あせらずゆっくりやりましょう” と声をかけるところ。





 この場合は……天に昇ることを叶わず、地獄へ入ることもできない、ただ世間を漂う幽霊。


 為信は、大いに笑った。腹がはち切れるかというくらいに。


「世に未練たらたらで、彷徨い続けるのだろうな。」




 沼田は “もしや” と感じた。為信をなんとか落ち着かせる。



「これにはもう一つ、考え方がございます。」





 “地蔵菩薩こそ、そうです。天や地獄でもない。人間界に在り、衆生をお救いなさる……”


 “では、私は神仏に化すと”


 “はい。魂は常世に残り、津軽を守り続けるのです”



  そんなことあるはずなかろうと、為信はあざけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る