8-3 統一の志

 森岡は八木橋に問う。


「それで、我らはどうするべきか。」


 八木橋は再び苦笑した。そして為信を見る。


「滝本様よりも早く、千徳を討つことです。先に浅瀬石を攻略し、滝本様には退却を願う。」


 本来なら共同で兵を動かすところ……一歩間違えれば約束違反だとし、大浦と滝本で戦が起きる。為信は八木橋に問うた。八木橋は強めに言葉を発する。


「いずれは戦うこととなる相手。津軽統一のため、障害になる。自明の理ではありませぬか。」


 津軽統一……それは最終手段。少し前、為信は滝本に意見した。津軽を豊かにするために必要なこと。それは“防風”と“治水”だと。


 “防風”とは、浜辺の屏風山に木々を植えること。冷たい海風を防ぐことにより、作物の生長を助ける。主に大浦領内のことなので、好き勝手やってくれという。


 ただし、“治水”はそうはいかない。津軽平野を流れる岩木川。治水を行い、田畑を広げる……口では簡単に言えるが、様々な利権が関わる。川の流れを変えることには、川辺に住まう領主や舟運の民の反発がある。大光寺は代々このような者らと近しいので、滝本としても賛同することはできなかった。


 これら問題を解決する一つの方法として“津軽統一”がある。一人の強い領主の元、改革を推し進めるのだ。しかも南部家中の争いに動揺することなく、自立した大名として。


 為信はそこまで考えたが、すぐに打ち消した。まだ話し合いの余地は残っていると思うし、無下に戦へ持ち込むべきものでもない。


 為信は八木橋を制する。


「簡単にそのようなことを口にすべきではない。」


 八木橋は逆らって、次に続けた。


「信直公とて津軽がどうしたところで、山を越えてまで動けないでしょう。勝ったとはいっても、九戸兄弟はまだ健在。不満を持つ者も多いのですから。」

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