5-10 卍の未来
同日、万次は科尻と鵠沼も呼んでいた。稲荷の社殿で、仲間たちが談義する。外の暗闇とは別に、数多くの灯で中は明るい。
“火は放たれた”
三戸での騒動は、津軽にも飛び火する。その動きを使わない手はない。誰もがそう思った。
万次は科尻と鵠沼に問う。
「準備は進んでいるか。」
二人は静かにうなずいた。周りの者は不敵な笑みを漏らす。万次はその皺だらけの顔をにやつかせる。
「……我らはかつて、相川西野と仲間だった。彼らは石川らの軍勢と戦った。つまり我らの敵は石川ともいえる。」
固唾をのむ。
「今、石川の敵は誰だ。それこそ九戸だ。……敵の敵は味方。つまり、我らと九戸は仲間とたりえる。」
万次は講釈を垂れた。
「そのように、相手も思ったらしい。あちらより使いが来た。」
“おおっ” と歓声が上がる。ある者が問う。
「しかしよくまあ……俺らのような者まで味方に付けようと考えたものですな。」
九戸は、何としても津軽の牙城を崩したい。万次は続けた。
「あちらは必死なのだろう。ただな……最近になって加わった者らもいる。勝ち目はすでに見えているぞ。」
破顔した。
酒を呑め呑め、鯨肉に食らいつけ。今日は前祝いだ。自ら奥より大樽を運ぶ。豪勢な食べ物を野郎に運ばせる。
万次は大きな器を持ち、トクトクと清酒を注ぐ。大口開けて、一気に飲み干した。ある者は踊り、ある者は歌う。すでに正月が来たかのようだった。
”我らが津軽を征する”
これは、夢ではない。
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