5-8 己の不明

 日は暮れて、丸い月が上がる。火の勢いは弱まり、遠くからは黒い塊にしかみえない。


 為信は火が収まったのち、早急な住居再建を命じた。暮らしていた村人の為であるし、これは野戦時の陣地構築の訓練にもなる。夜だからといって、戦は待ってくれない。


 計画してから今日までに整えた材木は、大浦城より運び出された。元から城に蓄えてあった分もあったので、不足はない。


 為信は、本陣より金槌の響く音を聴く。村民の住処は木の小屋が多く、総出でかかれば二日三日で終るだろう。雪降る前にすべてが済む。


 来るべき戦に備える。今回の訓練は、大きな収穫だ。




 ……兵らの中に、科尻と鵠沼もいた。材木を運ぶ手伝いをしている。二人の心には一抹の不安。果たして、企みは成功するのかどうか……。山の向こうで起こった“屋裏の変” により、時期は早まった。


 絶対に漏れてはならない。大浦家を乗っ取り、万次党が決起するために。



 為信と親しい他国者は……小笠原なら我らで何とかなる。問題は……面松斎。万次様とも親しい彼から為信に話が伝わったら、すべて無と化す。



 “面松斎を捕らえよう”


 二人の意見は一致した。ずっと万次様の傍より離さない。


 ……しばらくして、ドカ雪が降った。そんな時、二人は面松斎を呼び出す。“我ら二人のことを占ってほしい” と高山稲荷で落ち合うことにした。


 夜、地面を走っていた動物たちはねぐらに帰る。その足跡には小さい物や大きい物がある。月明かりは辺りの白原を照らし、その窪みの黒を一層際立たせた。

 新たに人の足が加わる。面松斎は久しぶりに高山稲荷に戻ろうと、ひたすら歩く。輝かしい光が遠くに見えてきた・・・もう少しでつく。


 この人物、偽占い師が故に、己の運命を見ることはできない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る