2-9 手柄

 家来衆とは違い、兵らは為信の言う事をよく聞く。きっと偽一揆のことがあったからだろうか。戦が長引くところ、話し合いによってあっという間に解決してしまう。その手腕は、寒さと共に身に染みていた。


 為信の後ろに、兼平や森岡も続く。信直の兵は大浦兵の後ろに位置する。まるで大浦が信直を守るかのようだ。


 太陽がまだ高いころに出陣したため、日が暮れる前に目的地に到着。長牛城の東側、ブナが生い茂る山に身をひそめた。ひたすら暗くなるのを待つ。


 

 ……日は暮れる。梟はなく。花輪と高倉山の両軍は城を目指す。九戸は伏兵を走らせた。

 

 北と東から兵が城へと攻めよせる。対する長牛の敵兵は丘の草むらに兵を潜めていたらしく、その中で戦いが始まった。


 その様子を山から見定める。


 


  信直は、小鞭を振り下げた。


 為信らは、鬨の声をあげることなく、静かに進んだ。……城からは明かりが漏れて見える。松明を焚いている横では、敵兵らが外を警戒している。……ただし、数は少ない。丘に兵士が割かれているからか。


 

 攻め込む。


 ほら貝を吹き、門に向かって兵は駆ける。敵は弓を手に取り、矢を射る。空気の震える音は、近くに眠る鳥らを一斉に羽ばたかせた。

 ……丸太を持った兵らが門へ体当たりをする。扉はいとも簡単に打ち破られた。邪魔する兵士は次々に倒されていく。

 

 櫓からは名のある将だろうか。指揮棒を片手に下の兵らに指示をだしている。“逃げるな進め。” “敵はすぐそこぞ。”

 次第に居ても立っても居られなくなったのだろうか、将が櫓から梯子で降りてきた。太刀を抜き、敵に向かっていく。

 

 そこへ小笠原は勝負を挑む。名の知らぬ将は、“うるさい”と彼の槍を手に取り、横へ押しのける。小笠原は一旦下がり、再び突く。

 敵は心を決め、対決することを選んだ。彼の太い胴体をめがけ、突進する。太めの体ながら小笠原はそれを軽くかわし、今度は槍を短めに持って、再びこちらを見た敵に挑む。


 ……槍先は、名の知らぬ将の腹を貫く。


 脇差しを手に取り、首をとる。手を伸ばし。高々に掲げた。普段は無表情でも、この時ばかりは明るい。


 

 皆、小笠原の手柄を認めた。

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