第68話 日伊同盟の相談 現代
――現代 健二
新学期が始まりいよいよ健二も高校最後の年を迎える。街は桜が咲き誇り、この時期だけの美しい色を見せている。新学期が始まりクラス替えも行われて健二の友達はずっとクラス替えのことで盛り上がっていたが、彼自身上の空だった。
彼の頭の中はノートが紡ぐ歴史の事でいっぱいで、友達の話もずっと上の空といった様子……
帰りも自転車をこぎながら健二はずっとノートの事を考えていた。
ノートの人からイタリアとどのように付き合っていくべきか相談を受けたんだけど……難しいよなあ。
健二と父はポーランド、ドイツ、オーストリア連邦、北欧諸国を円経済圏に取り込むことで融和が図れると考えていた。史実を振り返るとポーランドとドイツ、オーストリア=ハンガリー帝国の仲は非常に悪い。
ポーランド分割でポーランドが消え去った時期もあったが、ポーランドが強勢の時代はこの時代のドイツの元になったプロイセンの故地である東プロイセンもポーランドが支配下に置いていたし。強勢を誇った国が領土を分捕る歴史がずっと続いていたんだ。
1935年にポーランドのカリスマ指導者が亡くなるまでは、思惑通り融和が図られており事実上手くいっていた。しかし、カリスマが亡くなって政権が不安定になるとポーランドは暴走ともいえる動きを見せて行く。政権が不安定になると他国の工作を受けやすくなるんだよなあ。
ポーランドの暴走とも言える動きはきっと外国の思惑も多分に込められているだろう。もちろん西プロイセンを自国領土にすることはポーランドにとって一つの悲願であることは確かだ。そういった土壌があるからこそ、外国の工作も受けやすい。
じゃあ、ポーランドが西プロイセンに侵攻して得をする国はどこなんだろうと考えると、フランスかソ連だろう。フランス主導で絵図を描いたとすれば、現情勢に裏は無い。単純にドイツを叩くためだろう。
ドイツを再軍備まで追い込んで、フランスがドイツに侵攻しヴェルサイユ条約以上の息の根を止める条約をドイツに締結させる。
それならばまだいい。事はフランス、ポーランド、ドイツの問題で済むし目的もハッキリしているから対策も打ちやすいだろう。
ソ連ならばどうか。
もしソ連が描いた絵図だとすれば……健二はそのことを考えると急に寒気がし、全身が震える。もしソ連ならば、とんでもない動きになるぞ……
どっちが描いた絵図かで日本がイタリアとどう付き合うかが全く違ったものになる。
ここまで考えるたところで健二は自宅に到着したので、一旦思考を切り上げ家事を行っていると夜になってしまった。
夕飯の後、健二は父とリビングでイタリアを含めた検討を行うこととなった。
「父さん。イタリアへの対応だけど、ポーランドの動き次第だと思うんだ」
「ソ連なのかフランスなのかってことだな?」
父も同じ事を考えていたようだ。ポーランドを焚きつけた国はどこか。
「うん。どっちの思惑が多く入っているのかな」
「どっちもポーランドに工作を行っただろうな。健二、どっちがやったのかとかは特に考えなくていい。問題はポーランドが西プロイセンに侵攻した。その結果どうなったかだよ」
「ええと、ポーランドはドイツの機甲師団にあっさり敗れて西プロイセンから撤退したよね」
「ああ。敗れたのはもちろんポーランド軍の一部に過ぎないんだが、ポーランドとドイツの戦いぶりを見てフランスとソ連がどう思うかだ」
なるほど。父の言う通りだ。どちらかが工作したのかなんて問題無い。工作をしていなかったとしても同じことだ。事実ポーランドは西プロイセンに進駐し、ドイツに敗れて退いた。
この結果をもってフランスとソ連がどう動くかなんだよな。
「父さん。フランスはポーランドを支援しようにも間にドイツがあるから支援は難しいと思う。ソ連がポーランドへテコ入れするのかな。それともイギリスが?」
「健二。この戦い、敵対国の関係が非常にいびつなのは分かっているか?」
それは健二も考えていた。史実の第二次世界大戦では二つの陣営に分かれて戦争を行った。しかし、この世界での戦争は二つの陣営に分かれて戦争が起こっているわけではない。
ソ連はポーランドとドイツへ宣戦布告を行っているがポーランドとは不可侵条約、フランスとは何も軍事上の条約を結んでいない。イタリアなんてフランスへ宣戦布告を行っているがポーランドとソ連とは戦争状態にないし、ドイツとの同盟関係もない。
だからソ連とポーランド、フランスが戦争を開始しても何ら不思議ではないんだよな。
「父さん、俺はソ連がポーランドを支援したら厄介だと考えていたんだ。ソ連の思惑はもっと深いところにあったのかもしれないね」
「ああ。ソ連はポーランドが弱兵だと考えたとしよう。ドイツと戦争している間に後ろからポーランドを叩くこともできるわけだ。史実と似たような形になるな」
「史実のポーランド分割か……その方がソ連の利にかなうよね。だとしたら、イタリアを放置しておくことは出来ないね」
「ソ連がポーランドへ軍事支援を行った場合でもイタリアを放置しておくことはできないけどなあ。ソ連が静観するならイタリアは放置でいい」
「イタリアはオーストリア連邦がルーマニアやポーランド、ソ連に手を取られた隙にオーストリア連邦の未回収のイタリアを狙ってくるかもなんだよね」
「その通りだよ。健二。だからこそ、イタリアと同盟を結んでおくかこちらの提案が欲しいとノートの人が言ってきたわけだ」
イタリアに同盟を提案すれば、恐らくイタリアは受けるだろう。日本海軍がフランス海軍を破り、フランス海軍が対応できないところでイタリアはコルシカ島をかすめ取った。
フランスとの戦争終結後、日本がイタリアへコルシカ島の返還を迫ることもイタリアは予想しているだろう。しかし、日本と軍事同盟を結べばコルシカ島を得ることが出来る。
イタリアにとって損はない話だ。しっかし、イタリアはいい位置にいるよなあ。戦争の情勢次第でオーストリア連邦にもフランスにも襲い掛かれるんだからな。
「父さん。イタリアと軍事同盟はイデオロギー的に難しいんじゃないかな」
「俺もそう思う。当時のファシスト政権と日本やアメリカのような多党制の政権とは相いれない世情がある」
「そら悩むわけだよなあ。ノートの人も」
「健二。何もイタリアと共同で戦う必要性はないだろう。現有四か国はまとまっているところにイタリアが入ることで不協和音を起こす可能性が高い」
「不可侵条約が最良かな。餌としてコルシカ島ってわけか……」
イタリアと日本が不可侵条約を結び、戦後日本がコルシカ島のイタリア占領を承認することでイタリアがちょっかいをかけてこないようにするってことだな。
「ああ。イギリスとアメリカがどう反応するか注視する必要はあるがな」
「そうなんだよねえ。この戦争、上位二か国が参加してないんだよね。中立を保つと」
「まあ、軍事物資の支援も行っていないからまだましだけどな。これで不利な国へ積極支援とかされたらたまらないぞ」
「そうだね。そう思うといいか……」
そうえいば、フランスの植民地ってどうなってるんだろう? 日本以外フランスの植民地と接することもないと思うけど。イタリアはあり得るかな。
「父さん。フランスの植民地から日本の交易ルートが脅かされないかな?」
「来るとすればフランス領インドシナ――ベトナムだが、まあ問題無いだろう」
「日本がベトナムを押さえるってことも出来るよね?」
「まあ、ベトナムはどっちでもいいと思うけどなあ。下手に刺激してフランスの部隊を削る方が厄介だぞ」
「ああ。共産党か……」
日本がベトナムに行くとしても、洋上封鎖かなあ。戦争になればだけど。
「よし。父さん。ノートに書くね」
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