第67話 中欧戦争 過去

――東京 藍人 過去

 藍人の自宅から最寄り駅の広場に街頭テレビが設置されたので、彼は休日家族三人で街頭テレビを見に足を運んでいた。ちょうど日米野球の放送が始まったらしく、藍人達が辿り着いた頃にはものすごい人だかりがすでに出来ていた。

 明治初期にアメリカからもたらされた野球は大学で盛り上がり、ついにはプロ野球まで発展した。本場のアメリカと日本の代表チームが対戦するとあって日本国内では注目を集めていた。

 本日はその第二戦。一戦目は惜しくも日本が敗れたが、決して勝てない実力差ではなかったからこの日の試合は注目度がとても高い。

 

 だからこそ藍人達も見に来たわけだけど、込み過ぎだろ……と藍人は遠くに見える小さなテレビ画面に目を凝らす。見えないな。音は聞こえるけど……これならラジオで聞くのとかわらないかなあ。

 そう思った藍人は隣の妻を顔を見ると、彼女は顔を輝かせてテレビ画面に見入っていた。肩車している息子もさっきから大はしゃぎだ。


「見える?」


 藍人は妻に問うと、彼女は首を振る。

 

「見えないから、家でラジオにする?」


「ううん。みんなと一緒に観るから楽しいんじゃない」


 なるほど。妻の言う事も一理ある。これほどの群衆と一緒に観戦するとなったら、スタジアムで行われている熱気に近い一体感を感じることができるだろう。テレビ画面が見えない群衆も同じことを考えているのかな?

 納得した藍人は妻へ「そうだね」と言葉を返し、野球が始まるのを待つ。


 日米野球第二戦は日本の敗退で終わってしまったが、終盤までどちらが勝ってもおかしくない試合内容で、街頭テレビを見に来た群衆を大いに満足させるものだった。

 帰宅後、夕食を食べ風呂からあがった藍人はお気にりの縁側で新聞を読む。まだ肌寒く、足元が冷えるので藍人は火鉢に火を入れる。

 

 欧州に派遣された日本海軍と海兵隊はフランス、ベルギー、ポーランドへ圧力をかけているみたいだが、三か国とも日本の圧力を意に介した様子もなく、ドイツへ侵攻してしまった。

 三か国のドイツへ対する宣戦布告をもって日本は三か国へ経済制裁を行う。日本からの輸出を全て停止し、資金の引き上げを行う。元々そこまで取引量の多い国家群ではなかったが、大きな力を持つ円経済圏からの完全排除となると彼らにも痛手はあるだろうと新聞には記載されている。

 日本の経済制裁へ乗っかる国も出て来た。円経済圏のスウェーデンは鉄の輸出をフランス、ベルギー、ポーランドへ停止することを決定する。カタルーニャ共和国もフランスと取引を停止した。

 

「藍くん。難しい顔をしてどうしたの?」


「日本は平和だなあと思ってさ」


 妻が寒いだろうと藍人へ熱いお茶をお盆に乗せてやって来る。


ひびきはもう寝たんだね」


「うん。気持ち良さそうに寝ているよ」


 息子の事を思うと未だに顔が綻ぶ藍人を見た妻は彼につられて微笑む。

 

「欧州で激しい戦闘が行われているのにな……」


 藍人が満月を眺めながらしみじみと独白する。

 

「きっと戦争はすぐ終わるよ……」


 妻は藍人の隣に腰かけそっと彼の肩へ顔を乗せる。

 


――磯銀新聞

 どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回もエッセイストの叶健太郎が執筆するぜ! こたつの季節も終わりだなあ。最近はすぐに暑くなるから、そろそろ扇風機を出しておくか。

 家庭用冷房機がはやく普及しないかなあ。年取ると夏に弱くなってさ。あれだぞ、国会議事堂は夏でも涼しいんだぞ。冷風機ってのがあるみたいだけど、それなら涼しくなるのかねえ。

  

 西プロイセンに進駐したドイツだが、ポーランドから先制攻撃を受ける。自国の市街地ということで歩兵中心で隊を組んでいたドイツは、ポーランドから攻撃を受けると西プロイセンから撤退する。さらに進軍してくるポーランド軍へ日本が航空支援を行いドイツの機甲師団が進軍するとポーランド軍はあっという間に壊走する。

 ポーランドの騎兵隊ではドイツの機械化された軍団には歯が立たず、それに加え日本の航空機による攻撃が加わるのだから、日独連合軍の相手にならなかった。

 

 ラインラントから進軍したベルギーとフランスはベルリンへ向けて進軍をするが、ドイツの抵抗にあい戦線は膠着こうちゃくする。

 フランスと日本は洋上でも戦いがはじまったんだ。フランスの目的はドイツの海上封鎖だろう。ドイツは海軍が無いに等しく、中立国のイギリスから輸入を行うことが出来るものの日本からの輸出が途絶えてしまえば大きくその戦力を減ずるだろうことは明らかだったからな。

 フランス北東部のビスケー湾で行われた海戦は一方的なものになったんだ。この海戦は装備で勝る日本海軍の完全勝利で終結した。日本は第二の艦隊を地中海へ派遣し、フランスの地中海側の主要な港を封鎖すべく地中海でもフランス艦隊と激突する。

 ここでもフランス艦隊は日本に敗れ、フランス周辺海域は日本が制海権を取ることとなった。

 

 少しここで整理しようか。ポーランドは西プロイセンから撤退。フランスとベルギー連合軍はドイツ国内でドイツ陸軍と一進一退の攻防中。フランスと日本の海での戦いは日本がフランスを退けた。

 戦争に関わる国がこれだけなら、話は複雑にならなかったんだけどなあ。なんとここでイタリアが「未回収のイタリア」の回収を宣言し、フランスへ宣戦布告する。

 イタリアが言うフランスの「未回収のイタリア」は二つの地域だ。コルシカ島とフランス領サヴォイア(サヴォア)になる。

 イタリアの宣戦布告の翌日に彼らはフランス領コルシカ島の占領に動き、瞬く間にコルシカ島は占領されてしまった。コルシカ島はイタリア半島とサルディーニャ島に挟まれた島になる。

 地図を見ると分かりやすいんだが、コルシカ島はイタリア領にくさびのように入り込んだ島なんだな。しかしフランスはイタリアの侵攻を黙ってみていることしかできなかった。なぜならフランスは日本に海上封鎖されており、人員をコルシカ島へ送ることが出来なかったからだ。

 

 次に場所を東欧へ移すぞ。ブルガリアで争っていた共産党革命軍と政府軍の争いだが、トルコの協力を得た政府軍はトルコ陸軍がブルガリアに入ると共産党革命軍を圧倒し始める。

 圧倒的窮地に立たされたブルガリアの共産党革命軍をルーマニア社会主義共和国が支援を始め戦線をなんとか維持することに成功する。しかし、政府、トルコの連合軍が圧倒的に優位な情勢だ。

 これに対し、ルーマニア社会主義共和国はソ連へ救援を求める。この動きを察知したオーストリア連邦はソ連が参戦すれば、ブルガリアへ参戦するとトルコとブルガリア政府へ連絡を行った。

 もしソ連赤軍がブルガリア戦線へ進出すれば、オーストリア連邦も交えた激しい戦闘が行われることになるだろうが、ソ連赤軍が参戦しなければブルガリアの内戦は終結するだろう。

 

 欧州の激しい動きと逆に極東は静寂を未だ保っている。ソ連はフィンランドと東プロイセンに侵攻を行った。旧ロシア帝国の領域にあるロシア公国はソ連のこの動きに警戒を高めている。

 次に来るとしたらロシア公国だと容易に予想できるからだ。ロシア公国では亡命したソ連赤軍の将帥から得たソ連赤軍の情報から赤軍の戦略を知ることが出来た。それに対応できるように軍備を整え、更に日本が技術提供を行い軍の近代化にも成功している。

 ソ連とロシア公国では圧倒的な国力差があるが、防衛拠点を限定することと日米の支援があればソ連から自国を防衛できると見積もっているようだ。来るなら来いってところだな。

 

 アメリカは満州に派遣する軍事力を強化し、中華ソビエト共和国の人民解放軍、中華民国の民国党も軍事力を強化している。

 状況を見るに戦争が起こりそうな空気がするぜ。


※結城さんが素敵な二次創作を書いてくださいました。

ある売れない画家の死 日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~ 二次創作

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883010769

ちょび髭さんが出てきます。

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