第76話 霧の向こうがわ─円卓の勇者たち─
カズマたちパーティ、バニルチーム、悪魔側、それぞれ情報を交換し合い、最後にターニャが沈痛な面持ちでリタのことを報告した。
一同、しばし唖然として、誰ひとり声をあげる者は居なかった。
それはそうだ。この今回の事態を引き起こした最重要人物が、呆気なく、しかも部下に殺されたのだから。おそらく、全員がまったくをもって予想だにしない出来事だろう。
その重い静寂を割ったのは、めぐみんだった。
「あの…私、ずっと違和感があったのですが…。 魔王軍に、その……鬼って居ましたか?」
その言葉に、ハッと顔をあげたのは、ターニャとバニルとウィズだった。
三人は互いに顔を見合わせ、首を横に振った。
「めぐみん! 鬼なんて居ない! いや、居なかったわ! リタお姉ちゃんが、新たに仲間にしてるならわからないけど……」
それにはバニルが首を振った。
「そもそも、鬼なんて居ないはずなのだ。鬼は幽界の住人、この世界には存在するわけがないのだ。……我輩もそこまで思慮が及んではいなかった…紅魔の姫よ、よくぞ気がついた。」
めぐみんは紅い瞳を鈍く光らせて、ゆっくりと
「いえ。先の魔王討伐の時には一匹も見ていなかったので…。 私たちも、王都攻防の際には何匹も見かけていたのに、おかしいなとずっと違和感があったのです。」
隣のカズマがめぐみんの頭を撫で、笑いながら立ち上がった。
「こいつは病的に洞察力高いんだよ。俺も王都で中ボスくらいの鬼と話したぜ? 確か…酒呑童子…とか言ったっけ。 あの時は、改心して仲間になるって言うから見逃してやったんだけど、その夜すぐに奇襲をかけて来やがった。信じてやったのに、ほんと腹立つヤローだよ。」
その言葉に、カズマの後ろに控えていたニーナとシーナが声を荒げた。
「カズマ様! あの鬼という者を信じてはなりません! 私たちも本来なら、あのように無様に囚われの身になって使われるような後れをとることも無かったのですが、あの者たちは卑劣にも、私たちの目の前で人間の子らを一人ずつ引き裂いていったのです。そしてそれを助けるために、私たちはあのように囚われの身に。 カズマ様がお見逃しにならなければ、私たちが八つ裂きにしていたことでしょう。」
珍しく、あのしとやかなニーナが
サタンがそんな二人を見て、目を細める。
「我が友よ、その者たちはそなたの側室か?」
「おいおい! 恐ろしいことをサラっと言うなよ。 俺が死ぬぜ?」
カズマの隣の紅い瞳と碧い瞳が、カズマに穴を
逆に、喜び、手を叩きあうニーナとシーナ。
カズマは軽く咳払いして、二人を前に出してみせた。
「あー、紹介しなくて悪かったな。 こいつらは、神竜ニーズヘッグの娘たちだよ。
サタンと大罪悪魔たち、バニルとターニャとウィズも、目を見開いて声をあげた。
「「神竜ニーズヘッグの娘たち?!」」
カズマはその勢いに少し押されて、腰をひきながら言った。
「い…いや、ニーズヘッグの娘たちだよ? な なんか問題あんのか?」
それにはサタンが答えた。
「……まったく、呆れた奴よそなたは…。 神竜ニーズヘッグとは、この世界を構築する上での最上級生物。 言わば、この世界の意思そのものだ。 その力は神をも
バニルも続けた。
「…おおかた、何気なく助けて、何気なく仲間に加えたのだろうな、お前のことだから。確かに、奇跡の愛娘にすべてを繋げとは言ったが…まさかここまでの強大な力を手に入れて帰って来るとは……さすがに我輩も少し
「いやお前ら。 こぞって俺をなんか汚いもんでも見るような目で見やがって。 たまたま助けたドラゴンが恩返ししてくれたってだけじゃんよ。聞けば、アクアのかーちゃんとも親友だって言うし…なぁ? アクア?」
やり取りを始終楽しげに聞いているアクアに、助けを求めるカズマ。
アクアはさも楽しげに一言。
「だって、あなたは私たちの旦那様なのよ? 偶然であろうと神竜くらいペットにして
にこにことしつつも、きっぱりと言い切るアクアの言圧に、幼い二匹の竜娘たちの顔から先ほどまでの威勢は消え、アクアに
サタンは微笑んで言った。
「…そうか…。そなたの気性は父譲りということだな? 実にそっくりだ。
アクアは、慈愛に満ちた瞳で円卓を見渡して言った。
「勇者サトウカズマを
そのアクアの、慈愛に満ちた微笑みに、円卓の一同は言葉を失うほどに
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