第70話 アクセル攻防─遅れてきた勇者─
────────!!!!!!
「お師様?」
「お姉ちゃん?」
えいみーとこめっこが同時に反応した。
西の空に凄まじい爆発音。爆焔の束がグラトニーファングたちを一気に蒸発させていく。
「…すごい……でも…お師様の爆裂魔法はもっと大きかった……あれはお師様じゃない。」
えいみーはめぐみんの間近で爆裂雨を見ている。何より、めぐみんの魔方陣に力を添えて、一緒に爆裂魔法を撃ってすらいる。
かつてめぐみんがそうだったように、今はえいみーも爆裂魔法のスキルは体得していた。
「……ウィズかあさま…。」
いまだミツルギの胸に抱かれて呆然としていたターニャが、小さな声で呟いた。
「…爆裂魔法を撃つほどの事態になっているのかな?」
ミツルギが心配そうに、燃え盛る空を見つめる。
そこに突然、息を切らした冒険者たちがやって来た。
「ミツルギ!!──ターニャさんも無事か?! うっ……」
みな、庭の惨状と血まみれのターニャを見て、一様に言葉を失くす。
しんがりを務めていたバニルが入ってくるなり、ミツルギの胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「バニルさん!」
ダストとキースが慌ててバニルを止めに入るが、バニルは持ち上げたミツルギを真っ直ぐに見つめたまま、微動だにしない。
緊迫した空気の中、やがて、ミツルギから離され、リタであった肉塊を抱えたまま地面にへたりこんでしまったターニャに目をやり、ミツルギに問うた。
「状況は理解した。が、貴様はなんだ?」
この世のものとは思えない凄まじい怒気をはらんだその声に、場に居た誰しもが金縛りにあった。
そこはバニルとミツルギだけの閉鎖空間であるように、一同は息をも凍りつかせた。
「……僕は……彼女を護り切れなかった…。」
その言葉に、さらに怒気が増した声でバニルは再度問う。
「貴様はなんだと言っている。」
ミツルギは躊躇しながらも答える。
「……僕は……勇者…だ…。 この世界を…救うために来た、勇者だ…。でも……彼女の…ターニャの……お姉さんひとり救えなかった……ターニャを護り切ることが出来なかったんだ……。」
場に居る一同は、ミツルギのその泣いているかの様な声に、身を切られるような心地であったが、仮面の悪魔はなおも怒気を強く、ミツルギに語り始めた。
「そうであったか。貴様の中の勇者とやらは、そうやって言い訳やごたくを並べて、同情を集められる者のことを言うのだな?……少し我輩の知っている二人の勇者の話をしてやろう。……ひとりの勇者は、虫も殺せんようなお人好しでな。決して何も傷つけられんヤツであった。しかし、ある日、お前の様にこの世界へと送られて来て、この世界各地で暴虐の限りを尽くす悪い魔王を討伐しろと女神に命じられた。そやつは仕方なく、仲間たちを集めて討伐へと向かった。だが、討伐の道の途中、ある重大な秘密を知ってしまう。これらはすべて、何らか大きな存在の手のひらの上で行われているゲームに過ぎないんだとな。当然、魔王のしてきたという暴虐もでっち上げ。本物の魔王に会ってみれば、ただの知恵の無いモンスターだった。でも、それらがすべてでっち上げだと知れたら、世界はどうなる? ……混沌に満ちあふれ、強弱が入れ替わり、今よりも確実に悪くなってしまうのは誰が考えても明らかだ。そこでそやつは決めた。自分が魔王になって、この世界の混沌をコントロールしようとな。誰も、何も、傷つけない。それが、そやつの揺るぎない信念であったからだ。
もうひとりの勇者は、なにも変哲のない普通の小僧だ。誰よりも臆病で怖がりで、ずる賢い。おそらくは、この世界で一番の腰抜けだろう。
しかし、こやつには才があった。
生まれつきの強運の持ち主で、絶望的にあきらめが悪いのだ。どんな困難が振りかかって来ても、持ち前の強運とあきらめの悪さで、必ず乗り越えてしまう。そして、本人的には嫌な性分なのかもしれんが、困っているものを絶対に見捨てられないのだ。フハハハ。おかしなヤツよ。
自分がこうと決めたら、絶対に曲げんし退かん。たとえ死んでもだ。誰よりも臆病者のクセにな。
だから、周りの者は、そやつに命すら預けれる。絶対的に信頼が出来る。そやつなら世界を丸ごとひっくり返してでも、ひとりのために戦ってくれることが判るからだ。人を惹き付けてやまない。そんな
……そやつらに在って、貴様に無いものが解るか?」
持ち上げられたままの体勢ではあるが、ミツルギはバニルから目を離さずに呟いた。
「……信念……か。」
得心出来る答えが出たので、バニルはその場にミツルギを下ろした。
「そうだ。信念だ。……勇者とは、信念の塊であるべきなのだ。どんなに困難であろうと、どれほど苦しかろうと、決して見失わず、揺るぎない信念を持ち、前へ進む者だけが、勇者たり得るのだ。
自分が成し得なかったことを悔やみ嘆き悩むよりも、今、自分が成すべきことを探して、前へ進み続けろ。
その二人の勇者なら、迷わない。
決して、揺るいだりはしない。
何ものにも勇敢である者。それを勇者と呼ぶのだ。」
なおもバニルから目を離そうとしないミツルギに、少し表情を緩め、砕けたほうの左肩を叩く。
しかし、ミツルギは微動だにせず、真っ直ぐにバニルを見つめ、問うた。
「…その、二人の勇者の名は?」
バニルは、軽く口元で微笑んで、言った。
「先の勇者は、我輩の
もうひとりは…貴様もよく知っているヤツだろう。最弱職にして世界最強の冒険者、我輩の生涯の盟友、勇者サトウカズマだ。」
それを聞いて、冒険者たちも、えいみーとこめっこも、ターニャでさえも、驚きを
そんな中でただひとり、ミツルギだけが、目を閉じて空を仰いでいる。
やがて目を開けたミツルギは、ターニャと、えいみーとこめっこと、冒険者たちを見やり、バニルに言った。
「…僕はまだ未熟だ。だけどもう、迷わない。必ず、みんなが笑って生きることの出来る世界を創る。見ていてくれ。」
バニルは微笑んで問う。
「
ミツルギは腰の魔剣グラムの柄に手を置いて、高らかに叫んだ。
「僕の名はミツルギキョウヤ! 勇者ミツルギだ!!」
一同の声援が、ホームの庭に溢れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます