第68話 アクセル攻防─小さなバーディ─
「…ターニャ先生……?」
ホームの扉が内側からうっすら開けられ、中から小さな紅い瞳がふたつ覗いた。
えいみーとこめっこだ。
ふたりは外が静かなのを確認すると、急いで外に出て、頭を低くしながら近くのミツルギへと駆け寄った。
「キョウヤ?! 大丈夫なの?」
いまだ倒れたまま起き上がれないミツルギを、ふたりが支えて起こす。
激痛に顔を歪ませながらも、えいみーに微笑みかけるミツルギ。
「…はは。ひどくやられちゃったよ。ありがとうえいみー。こめっこちゃん。」
えいみーがミツルギの左腕を支えて、こめっこが近くにあったロープで身体に固定する。
黙っているが、ふたりはまるで双子の様に息が合っていて、すべての行動に無駄が一切見当たらない。
以前のえいみーも、すごく頭の回転が早く、問題に際した時の処理能力は大人でも太刀打ち出来ないほどだったけど、常に控え目な彼女は、その才を充分に発揮出来ていなかった。
しかし、今はどうだ。
瞳の輝きが違う。
自分の思いに、一切迷いがなくなっている。
以前なら、思ってはいても遠慮して行動には移せなかった彼女は、今ではこんな応急手当ですら迷いなく率先して行っている。
そして、それをすべて解っているように、手を貸すこめっこ。
ふたりはお互いの向かう方向が、綺麗に同じなんだろう。
凄い。このふたり。
今でこれじゃぁ、末恐ろしくもあるけれど。
ミツルギはふたりに簡易ギブスをして貰いながら、ふたりのバーディに思わず言葉を失うほどに見惚れていた。
「ねぇ。ターニャ先生、どこ?」
えいみーが、ぼんやりしているキョウヤの顔をのぞきこんで聞いた。
「……あ? あぁ。 ターニャは……おいで。こっちだよ。」
ミツルギがよろよろと立って、ホームの裏手へと歩き始め、ふたりはそれを支えるように続いた。
***
「……ターニャ…先…生…?」
ホームの正面の角を曲がるとすぐに真っ赤に染まった地面が拡がった。
まわりの至るところが真っ赤。
壁も、庭木も、石ころも、すべてが血の色。
その真ん中にぽつんとターニャがぺたりと座っていた。
その腕に、大事そうに何かを抱えているが、すぐにそれが、血のしたたる肉の塊だということが判った。
「……ターニャ…すまない…。」
キョウヤのその言葉に、ゆっくりと顔だけを向けるターニャ。
その表情は、なんの感情も映していない。
血まみれの顔。血まみれの身体。
腕に抱いた血の塊からは、止めどなくいまだ血が流れ出している。
不意に、ターニャの瞳がキョウヤを映し、色が戻る。
「…キョウヤさん……。お姉ちゃん……死んじゃった……。」
ふっと微笑んだ顔が、すぐに歪んだ。
キョウヤはぐちゃぐちゃの腕の痛みにも構わず、ターニャに駆け寄り、右腕でターニャの頭を胸に抱いた。
「…すまない…ターニャ。僕の力が及ばなかった…。本当に…ごめん。」
ターニャは、キョウヤの胸の中で首を振りながら、ただただ嗚咽した。
えいみーとこめっこも血まみれのターニャの肩に抱きつき、震えを止めようと、ずっとターニャの身体をさすり続けた。
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