第57話 カズマ無双─はらぺこな左腕。─
「しっかし、よくもまぁこんなに雑魚キャラばっか集めたもんだ。ゲップが出るぜ…。」
目指すのは司令塔らしき赤鬼。
しかし目の前には次から次へと押し寄せる雑魚たち。
なかなか前に進めやしない。
「うっぜーんだよ!劣化エクスプロージョン!」
右手を掲げ、向かって来たアンデッドナイトとスケルトンの群れに、マナタイトドーピングした爆裂魔法を投げた。
それなりに効果があって、わりとたくさん消し飛んだ。
「ほら弱ぇ。だから来んなって言ってんのに…。」
カズマは嘆息して、赤鬼に向かって叫んだ。
「雑魚はどーでもいいから、お前と話させろ三下!!」
さすがに三下と呼ばれてムカついたのか、赤鬼が動いた。
「人間の小僧が何イきってやがんだ…? 魔王様を倒した悪魔の手先が!」
赤鬼は地を踏み鳴らし、怒りを露にした。
しかし今のカズマにとっては悪魔は神より信頼がおける親友。決して不快には想えず
「誉めてくれてありがとーなー‼ 悪魔は俺の親友なんだよー!」
と悪びれず言った。
どうやらそれが余計に赤鬼の逆鱗に触れたらしい。
赤鬼は顔をより真っ赤にして叫ぶ
「ぶっ殺せ!一斉に潰せ!」
その声を合図に三方を囲っていた魔物たちが、一斉にカズマに殺到する。
カズマは困った顔で肩をすくめると、しぶしぶ左腕を掲げた。
すると、カズマの左腕が真っ黒に変化し、濃い紫の光が輝き始め、次の瞬間、襲って来るために動いていたすべての魔物たちが一瞬に消えた。
赤鬼は目をしばたたかせ、目の前の光景に唖然とした。
「……なん…だ…? 一体なにが起きた……?」
それを見たカズマは困った顔で赤鬼に
「だから来るなって言ってんのに…わかんねーヤツだなぁ。仲間みんな居なくなるぜ?止めとけよ。」
と黒く染まったその左腕を振った。
王城のほうから歓声が聞こえる。
カズマは後ろを振り向くと、王城のかなり上のほうの窓からたくさんの顔が見えた。千里眼スキルで見ると、アイリスたちの顔も見えた。
少しほっとして、また赤鬼を見据える。
「だからさ。ちょっと話をしようぜ?お前たちも別に死にたくはないだろ?俺はリタさんと話したいだけなんだよ。お前らが俺を怨んでんのは解ってる。だけど弱いもんいじめは止めとけよ。俺だけに向かってくりゃいいんだよ。でかい図体してそんな事もわかんねーのか?」
赤鬼はそれにまた更に憤慨する。
「黙れ人間風情が!! 姫様と話なぞ以ての外だ! 憎いお前を苦しめる為にお前以外を苦しめているんだ!お前を殺すのなんかすぐにでも出来る!なんだったら後ろの二人と、王城の人間どもを皆殺しにしてもいいんだぞ?このレッドドラゴンのブレスでな?」
赤鬼は鎖で繋いだ二体のレッドドラゴンの身体をポンポンと叩く。
レッドドラゴンはそれを不快そうに短く鳴いて、口からチロチロと炎の舌を出している。
首に巻かれた金属らしき首輪の回りから青い血が滲んでいる。
どうやら、ドラゴン的には不本意に繋がれているみたいだ。隙あれば逃げ出そうとしている。
高貴なドラゴン族、しかもレッドドラゴンといえば、上から数えたほうが早いくらい高い位のドラゴンだ。
カズマは少し不憫に想った。
しかし、先ほどの赤鬼の発言にけっこうムカついてもいた。
だから強い俺をやらずに弱いもんいじめんのかよ。
少なくとも、魔王ヤサカは俺より強いぜ?俺は強いものに向かっていって勝ったんだ。お前らにヤサカと俺の戦いを汚す資格は無い。
「……やってみろよ…? その前にお前は瞬殺してやる。」
カズマの低く唸るような声が赤鬼を少し震わせた。
赤鬼はそれに首を振り、答える。
「それじゃぁお前は潰そう。死ね小僧。」
赤鬼がレッドドラゴンの腹を殴ると、ブレスが噴き出す。
すべての属性を溶かすドラゴンブレスだ。
真っ直ぐにカズマとアクアとダクネスと王城に向かって放たれる。
目の前にいる味方の魔物も巻き込んで、猛然と向かってくるブレスを、カズマは微動だにせず左腕を前に出して受け止めた。
ブレスは左腕に当たるとすーっと腕に吸い込まれていく。
レッドドラゴンがブレスを吐ききったところで綺麗に止まり、何事もなかったようなカズマが、赤鬼に向かって歩き出した。
「なっ…なんなんだっ…お前…?!」
赤鬼が驚愕する。
向かい来るカズマに恐れて逃げていく弱い魔物たちが次々と出てくる。
「ただの冒険者だよ? ただし、世界最強なんだけどな?」
赤鬼はその言葉に身体の震えを隠せず、ガタガタと後ずさりしながら叫んだ。
「こ 殺せ! 今すぐそいつを殺せぇぇ!!」
一斉に攻撃を仕掛けて来る軍勢に、カズマは左腕をあげて叫んだ。
「サターニャの名において命ずる!出でよリヴァイアサン!すべてを喰らい尽くせ!」
また左腕から紫の閃光が迸り、低くくぐもった声が響いた。
「御意に。盟友サトウカズマよ。我は汝の敵を討ち滅ぼさん。」
そして
黒く巨大で強大な大蛇が現出した。
その大きさは遥か王城をも超え、一万二万の軍勢など蟻くらいの小ささだ。
魔物たちは蜘蛛の子を散らした様に叫び逃げまどう。
しかしリヴァイアサンはそれらすべてをことごとく捕らえ、咀嚼し、呑み込む。
レッドドラゴン二体は羽根で身を隠し丸く縮みこみ、ガタガタと震える。
その惨状の最中、カズマは赤鬼とレッドドラゴンの元へとゆっくりと歩いて行き、レッドドラゴンたちの身体を撫でた。
レッドドラゴンたちは震えながらも顔を羽根の間から少し出して、カズマを潤んだ瞳で見る。助けてと、請う瞳。
それにカズマは大きく頷くと、笑って
「逃げていいよ。もう誰にも捕まるなよ?」
と言うと、レッドドラゴンたちは身体を出して、カズマを見つめ、大きく頭を垂れて一言鳴いた。
そして、空に向かって飛び立った。
魔物たちを咀嚼する巨大な大蛇の横を少し旋回して、一声鳴いてから東の空を目指して仲良く飛んで行った。
巨大な大蛇はひとつだけ東の空に向かって吼えてから、また美味そうに食事を続けた。
目の前の赤鬼はもう完全に戦意を失い、失禁して、地面に平伏していた。
赤鬼は近づくカズマに後ずさりし、涙を流しながら、叫んだ。
「なんでも話します!なんでも言います!助けて!助けてくださいませ‼」
命乞いを始めた赤鬼にカズマは大きく嘆息して
「バカが…だから何度も言ったんだよ。話させろって…。今の俺には神だって勝てやしねぇ。見ろよこの惨状? あれは世界最強生物の大悪魔だよ。知ってるよな?リヴァイアサン。俺の親友だよ。」
赤鬼は何度もこくこくと首を縦に振る。
「分かったら、見逃してやるからリタさんに伝えてくれ。サトウカズマが話がしたいって言ってると。」
赤鬼はとたんに喜びだし、捲し立てた。
「ええ分かりましたカズマ様!すぐに伝えて参ります! そしてどうかわたくしもお供にお加え下さい!お願いします!なんでもします!よろしくお願いします!」
カズマは肩をすくめると、赤鬼の肩を叩いた。
「…分かったよ。お前が今後絶対に俺の仲間たちや人間を傷つけないって誓うなら、俺たちの仲間にしてやるよ。」
その言葉に赤鬼は飛び上がって喜び、カズマに最敬礼をした。
「私の命の限り、全霊で守り抜くと誓いましょう。私の名は酒呑。酒呑童子と申します。鬼族の長を勤めております。今日よりのち、我が一族すべての力をあなたとあなたのお仲間に捧げましょう。どうか幾久しく私めに御身の御側をお許しください。」
カズマは頭をガシガシとかきながら
「あー。そんな堅っくるしいのいらねーからさ。友達でいいよ。な?お前と俺は今日から友達だ酒呑。それでいいだろ?」
酒呑童子は少しの間口を開けて呆気に取られていたが、豪快に笑い出した。
「ワハハハハハ!これは豪気!流石世界最強を名乗るだけのことはある。分かり申したカズマ様。この酒呑。命に換えましてもあなた様の御側に使えましょう! 友達…としてでしたな。ワハハハハハけっこう!よろしくお願い申し上げます!」
なんだか分からないうちに鬼族の長、酒呑童子が仲間になった。
それよりもカズマは、後ろでムシャムシャしてる黒いのが気になっていたので、後ろを振り返り叫んだ。
「お~いクロ? もぅ良いんじゃねーか? さっさと戻れー!」
リヴァイアサンは少し不服そうにカズマに鎌首を向けて、最後の魔物を呑み込んだ。
そして縮んで、いそいそとカズマの元に戻って来ると、「げふ。」とゲップひとつ残して左腕に消えた。
もう酒呑童子以外には魔物は居なくなっていたが。
後ろからアクアとダクネスがうれしそうに走って来る。
王城から拍手と歓声が鳴り響いた。
カズマは窓にアイリスの姿を見つけ、親指を立ててウィンクした。
それにアイリスが満面の笑顔で迎えてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます