第51話 光を纏う敵対者といざなう者。


「はい。ノド乾いたでしょ?」


「…………………ふぅぅ。」



ターニャからよく冷えた飲み物を手渡され、ウィズはさらに残念そうに大きく嘆息した。


「……コーヒー牛乳ですね。」


「そうよ? 私大好きなの♪」


何が悲しくてこんな魔界くんだりに来てまで、昭和なドリンク飲んでぷはーってしなきゃならないの…?


腰に手を当て男らしいターニャが、んくんくコーヒー牛乳を嬉しそうに飲んでるのを見ると、それもまぁありか。と、嘆息を禁じえなかったのである。


「ぷはー。生きかえるー♪

ねぇねぇウィズかあさま? 気持ち良かった? ねぇ? ねぇ?」


とたんに先ほどの燃えるような激情を思い出し、顔が火照る。

ひぇー恥ずかしいー。


「すっごい声だったよ? お城に響き渡ってたもん。ウィズかあさま可愛かったー♪」


結局あれから5回もイかされてしまった。恥ずかしーい

でも、本当に気持ち良かった……。


「ちょ、ちょっと待って下さいターニャさん? その……かあさまっていうの?何でですか?」


ターニャは目を見開いて大きく手をぽんっと打った。


「あぁ! ウィズかあさまは知らないか。魔王城でもお父様とお姉ちゃんとウォルバクしか知らなかったし…。

あのね。バニルはね。私のお父さまなの。」


「へっ? ………………ぇぇえ?! えっ?! どういうことですか?!」


「えーっと。順を追って説明するわね?

まず、このお城に居る私のお父さまは完全体ではないの。

Satan敵対する者

サタンは今の神々によってその名前を付けられたわ。

元々、この悪魔族って言われてる存在も、彼らオリュンポスの神々が、他の宗派の神々を認めず、我こそはこの世界の絶対的な存在だー!って迫害した、オリュンポス神以外の神々の集まりなの。私たちの名前はヴァン神族。まだこの魔界には他の神族がオリュンポスに追いやられて、たくさん住んでいるわ。」


「……と …… とてつもなく深遠な秘密を聞いてしまってないですか?私。」


「ふふ。そうよ? これはこの世界の禁忌。 人々に敬い崇められてる絶対的な神々が積み重ねて来た悪事の秘密なんだから。」


「ふえ~。こんなリッチーごときが知っていい秘密じゃぁないですよ~。」


ウィズが頭を抱えてうずくまった。

ターニャはそんなウィズを正面に見据えて、続けた。


「いいえ。ウィズかあさま。

あなたは選ばれたのです。光を纏う者に。

私のお父さまの善心である、バニルに。

バニルとサタンは200年前、あることがきっかけで仲違いをし、分裂しました。

それを良しとしたオリュンポス神は、その隙に神の軍隊、守護天使を魔界に送り込み、魔界に居た大勢の神々を滅ぼしていったのです。

人類を救うべく、オリュンポス神に抵抗を続けていた、Vanr Satan光を纏う敵対者が崩れたため、それまで均衡を保っていたこの世界の秩序が大きく書き換えられたのです。

それが、あなたたちの知るこの世界の始まりです。

この世界は、オリュンポス神が自分達の都合のいいように創った、いわばゲーム盤なんです。

人類という厄介な生物を、掌握し、支配するための、自分達にとって都合の良い秩序を付けた箱庭。と言ったほうが分かりやすいかしら。」


あまりにも途方がない話に頭がついていってない。

それでもサクサクと話を進めるターニャを手を振って制して


「いやいやターニャさん?

なんだかとんでもないお話でなんなんですが、そもそものお話、なんで私があなたのお母様? なんでバニルさんが私を選んで? えっ? 意味がわかんないです…。」


「だからあなたはバニルに選ばれたの。本来なら母のリリスが重要な役割を担っていたんだけど、サタンがそれを自分の浅はかな考えで台無しにしてしまったの。母の役割はLilith誘う者。人類を護り正しく導く夜の魔女。

サタンはそれが、万人を惑わし誘い込む娼婦に想えたのでしょう。

違う。母は強く気高く何よりも優しかった。自らの役割を違うことなんて絶対に、ない。

ウィズかあさま。あなたは母に似ています。

魔王城での行い。アクセルでのあなたの行い。

民たちや、神族魔族をも分け隔てなく慈しみ、自らを賭して護り抜く姿は、夜の魔女にも劣らないでしょう。だからバニルはあなたを護っていた。わからない?

バニルはあなたを愛しているの。

生涯の伴侶として認めてるの。

私を護るために魔王城に来たのに、私を置いて、あなたを追っかけて行くんですもの。びっくりしちゃう。ふふ。

でも、解るわ。

こんなに素敵なひとなんですもの。

不死という枷を我が身に課しているにも関わらず、こんなに純粋で綺麗な心を持って、誰をも分け隔てなく慈しんでるあなたが。

私から言っちゃって怒られちゃうかもしれないけど、ウィズかあさま?

私はあなたを認めます。

あなたなら、お父さまを幸せに導いてくれると信じています。どうか、お父さまを宜しくお願いします。」


そう言って深々と腰を折るターニャ。

ただただ呆然と、とてつもない話の連続に口をぽかんと開けることしか出来なかったウィズが、ターニャのその姿に慌てて


「いえいえいえ滅相もない!

私みたいな半端なアンデッドごときにそんな! どうか頭をあげてターニャさん? バニルさんのことは、バニルさんのことは? バニルさんが……? 私を愛して………きゃ!」


あたまの先から爪先まで真っ赤になって湯気を噴き上げたウィズが、後ろに昏倒した。


「ちょっ!ウィズかあさま?! レヴィ?! かあさまが! 早く来て!ウィズかあさま?! 起きて?かあさまー!!」


朦朧と薄れ行く意識の中で、昔の仲間たちが笑ってるのが見えた。


─良いんですか?私が。

こんなに嬉しい想いをしても。

笑ってないで教えて下さいよ。


ねえ? みんな。──



その答えは聞くことなく

幸せな胸のあたたかさの中で、ウィズは意識を失った。


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