第90話 クラッシャーズ VS 無法三兄弟?


 赤く燃え盛る炎が、見えない風の刃が、鋭い氷の槍が、容赦なく襲い掛かってくる。

 まるで魔法のような攻撃を躱し、打ち消し、叩き落す。

 しかし、戦いはそれで終わる訳ではない。

 冷たい印象を与える日本刀の斬撃が襲い掛かり、時代観を無視した鎖鎌が振り下ろされる。


「いい加減にしつこいのよ! しつこい男は嫌いよ!」


 日本刀の一撃を易々と腕で受け止めた由華が、黒服の男の顔面にパンチを喰らわす。

 その一撃は、まるで特撮ヒーロー物のアクションシーンの如く、殴りつけた男を遥か彼方に吹き飛ばす。


 金剛と名付けられた硬化の能力を駆使する由華は、凶器を手に襲い掛かってくる者達を物ともせず、次々と殴り飛ばし、蹴り飛ばしていた。


「さすがはゴリラなのですね」


 原始的な手法で敵を退ける由華を見て、ナナは呆れた様子で感想を述べる。

 それでも、両手の人差し指を休ませることなく引き絞っている。


 彼女のオートマチック型の拳銃から放たれた弾丸は、予め着弾地点が決まっているかのように、的を外すことなく敵の額に穴を穿つ。

 勿論、久美子や蘭が敵の態勢を崩したところに撃ち込んでいるのだが、彼女がロックオンと名付けた能力は、文字通り的確に敵を葬っていく。


 それはそうと、どうやらナナの感想は由華の耳に届かなかったようで、彼女は気にすることなく襲い掛かってくる敵を殴り飛ばしていた。

 というのも、他の者が騒がしくて由華の耳に届く前に掻き消されたのだろう。

 それを証明するかのように、可愛らしい少女がその見た目と相反する怒号を上げた。


「おらおらおら、ちくしょうーーー! 吹き飛べ! 爆裂!」


 ドサクサに紛れて彼女の座に収まろうとした久美子が、ナナに負けじと両手に持った銃を撃ち放ち、敵に無数の爆裂をお見舞いしている。

 恐らくは、スバルから未だに了承して貰えていない腹いせなのだろう。いつもよりも爆裂の勢いが激しいようだ。


「クククッ! 男日照りは哀れだな~! おらよ! 喰らえ!」


 どこで何が間違ったのか、奇跡的に北沢の彼女となってしまった蘭が、自分は勝組だといわんばかりの表情で、久美子を揶揄しながら得意のエア弾を敵にぶち込む。


「ちょっと、北沢さんの趣味を疑うけど......まあ、蘭もいつまで持つやら......直ぐに捨てられるかもよ?」


 勝者の笑みを見せる蘭に向けて、サクラが呆れた様子で両手を振るう。

 その途端、群がる敵が切り裂かれていく。

 ただ、何らかの異能を使った防御を行っているのか、その成果は思いのほど上がっていない。

 しかし、次の瞬間、その敵は鋭い地柱で貫かれて絶命する。


「おしゃべりもいいけど、気を抜くなよ! アースクエイク!」


 少女達を窘めつつ、スバルは地槍を連発する。

 さすがに、戦闘の距離が近くなると簡単には避けられないようだ。黒服の男達が呻き声を上げながら鮮血を撒き散らす。


 当初は見慣れない攻撃に慌てたスバル達だったが、いまや、それにも慣れた所為で粛々と敵を葬り去っていた。


「でも、もう残りも少ないわよ。さっさと蹴散らしましょ」


「由華、それが油断なのですね」


「うぐっ!」


 まばらとなった敵を眺め、由華が軽率な発言を漏らすと、ナナが戒めの台詞を突き込む。


「まあ、ナナ子の言い分も理解できるが、残り二十人もいないぞ?」


「オレが叩き潰してやるさ!」


「蘭、あなたの攻撃で倒せてないのを理解してる?」


「ぐあっ!」


 ナナの厳しい言葉に由華が呻いたのだが、久美子が透かさず事実を口にした。

 そこで、血気盛んな蘭が意気込むが、結局はサクラに突っ込まれて撃沈していた。


 ――まあ、この状況だと勝負は決まったようなものだし、気持ちは分かるけど、少し気を抜き過ぎかも......


 調子に乗る少女達を見て、スバルが不安に駆られた時だった。

 突如として現れた三人の若い男が口々に毒を吐いた。


「すごいじゃん! 女ばっかでこれだけやったの? てか、こいつらが弱いんじゃない?」


 一番背が低く、スバルとあまり変わらない年頃の雷樹が、周囲を見回した後に由華達に視線を向けつつも、転がる黒服達を足蹴にした。


「つ~かさ、こいつらが弱いにしても、これはあんまりじゃん。こいつら本当に血筋者か? というより、おお、あの子......オレ好みだ」


 雷樹と同じように黒服を足で突きながら、二十歳くらいに見える炎樹がナナを見て欲情丸出しの顔付きとなった。


「養殖がここまでやるとはな。これじゃ天然物の価値がないな。てか、女五人がこれをやったのか......これは躾をするしかないな。クククッ」


 二十代なかばといった様相の風樹が、吊り上げていた方眉を降ろすと、その代わりと言わんばかりに口元を引き攣らせて嫌らしい笑みを作った。


 ――なんだ、こいつら!? 養殖もの? 天然もの? 一体何のことを言ってるんだ?


 現れた途端に毒を撒き散らす三人の男を見て、スバルは疑問を感じたようだったが、そんなスバルに気付いたのか、風樹が偉そうに声を上げた。


「なんだ。男もいるじゃね~か。まあ、どうみてもガキだが......まさかと思うがお前がリーダか?」


「スバルがリーダに決まってるじゃない! あなたこそ誰よ!」


 風樹の物言いが気に入らなかったのだろう。由華が即座に反抗的な態度で誰何の声を上げた。


「ほ~、いい女じゃね~か! オレは風樹だ。てか、スバルねえ~、そんなガキんちょなんてほっといて、オレと遊ぼうぜ」


 ムキになる由華を見て、気色を示した風樹がナンパめいた言葉を口にする。

 ただ、スバルを腐したのが拙かったのか、眦を吊り上げた由華が罵声を鳴らした。


「オジサンなんて興味ないわよ! 早く消えてちょうだい!」


「オジサン......」


「ああ、言っちゃった......禁句なのに」


「それよりもさ~、あの子......いいな......ちょっと悪戯したくなってきた......」


「はぁ? あぅ......風兄! 炎兄の病気が出たよ!」


 凍り付く風樹を見て、溜息を吐いた雷樹だったが、その横で次男の炎樹がナナに熱い眼差しを向けて怪しい発言を漏らした。

 それに気付いたのか、ナナが即座に身震いをする。


「寒気がするのですね。というか、私のダーリンはスバルだけなのですね。あんたみたいな男は好みじゃないのですね」


「ムキ―――! あの娘もその男の女なんか!? ゆゆゆゆゆるせん!」


 ナナから却下された炎樹が怒りを剥き出しにすると、何を考えたのかサクラと久美子までもが胸を張って主張した。


「私も新藤君の彼女ですが?」


「あたいもスバルの女......の予定だぞ......」


 自慢げに主張するサクラと久美子だったが、未だOKを貰えていない所為か、久美子の言葉は最後の方が尻すぼみとなっていた。

 ただ、風樹達にとっては破壊力抜群だったのだろう。蘭を除く誰もがスバルの女だと知って、風樹が怒り狂う。


「く、くそっ! 誰が、誰がオジサンだ! こう見えてもまだ二十四だぞ! ふざけやがって! てか、その胸の無い女以外、全員その男の女なのか!? その歳でハーレムとか許せん! ぬっ殺してやる」


「おいっ! 喧嘩売っとるんかい! オレの彼氏は超二枚目でイケてるんだぞ! 喰らえ! エアバレット!」


 怒れる風樹から胸の無い女と言われ、一瞬にして沸騰した蘭がエア弾をぶち込む。

 ところが、風樹は手の一振りでそれを霧散させてしまった。


「えっ!?」


 攻撃を簡単に無効化されたことで、蘭が驚きを露にすると、風樹がお返しとばかりに、罵りながら手を振った。


「この程度か......てか、二枚目の彼氏だと!? 妄想も程々にするんだな。うりゃ!」


「妄想じゃね~! うおっ!」


 風樹の言葉に怒りを露にした蘭だったが、次の瞬間、目の前に土の壁ができたことで驚いて後ろに下がる。

 そう、風樹の攻撃をスバルが障壁で防いだのだ。


「スバル、サンクス!」


 ヤバい処を助けて貰った蘭が透かさずスバルに礼を述べるのだが、そこにサクラからの叱責が飛ぶ。


「蘭! 油断し過ぎよ!」


「す、すまん......」


 さすがに拙かったと思ったのか、蘭が素直に謝っているのだが、向こう側では風樹のみならず、炎樹と雷樹の二人も驚きに目を見開いていた。


「な、なんだと!?」


「兄貴! これって!」


「風兄、こんなの初めて見たよ!」


 どうやら、三兄弟にとってもスバルの力はイレギュラだったのだろう。

 ニヤニヤとさせていた顔を引き締めて、鋭い眼光をスバルに向けた。


「おまえ、何者だ!? この力は何だ!?」


「教える訳ね~だろ! バカチン!」


「ぐおっ! このクソガキ!」


 鋭い表情で戦闘の構えを執った風樹が問い掛けたのだが、スバルはまるで馬鹿にするかのように切って捨てた。

 それが心底ムカついたのか、風樹は透かさず両手を振って攻撃し始めた。


 こうしてスバル達クラッシャーズと風樹達無法三兄弟の熾烈な戦いが始まるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る