第34話 もう陥落?


 二人の少女は悪態を吐きながら歩いていた。

 ただ、二人としたのはいささ語弊ごへいがあるかもしれない。

 なぜなら、二人の少女は無機質な廊下を歩いていたのだが、悪態を吐いているのはそのうちの一人だけだったからだ。


「畜生! 始末書を三枚も書かせやがって! ちっ、もうこんな時間かよ! まだ飯も食ってないんだぞ!」


「任務を完遂できなかったんだから、怒られるのは仕方ないわ」


「ちぇっ! 優等生の言うことは一味違うな。てか、なんでサクラは始末書無しなんだよ!」


「私はホテルの壁しか壊してないからよ。まあ、そのホテル自体が崩壊したから、それも分からないでしょうけど。ただ、蘭は壊し過ぎよ。見た訳じゃないけど、情報規制が大変だったって言ってたわ」


「ぬ~~~~~!」


 悪態を吐く蘭は、サクラに八つ当たりをしていたが、最終的には自業自得だと言われてうなり声を上げる。しかし、それを見たサクラは、蘭の機嫌を取ることにしたようだ。


「まだ、十二時だし、ファミレスでも行きましょうか。私がおごるわよ」


「なに! マジか! いくいく! 今月は苦しかったんだ。是非ともご相伴しょうばんさせてください」


 サクラの申し出を聞いた蘭は、一気に表情を好転させて縋り付いてきた。

 ただ、どさくさに紛れで胸を触ろうとした彼女の手は叩かれてしまう。


「もうっ! 油断も隙も無いんだから!」


「ちぇっ! ケチだな。そんだけ大きんだから少しくらい構わないだろ?」


 全く大きさに関係のない話なのだが、蘭は当たり前のように不平を述べる。しかし、サクラは無意識に非情な言葉を口にした。


「自前があるんだから、他人の胸を触る必要はないでしょ?」


「ぐあっ! それは当てつけか? お前の半分もない事の当てつけだよな? 実は優越感に浸ってるんだろ!?」


「馬鹿じゃないの? 私は別に胸が大きいのを良い事だなんて思ってないわよ? 肩が凝るだけだし、動き辛いし、百害あって一利なしね」


 サクラが持論を述べたのだが、蘭はそこで首を傾げる。


「ん? 百害あって一利なし......どこかで聞いたことのあるようなことわざだが......なんか違和感を持ってしまうな......」


 難しい表情で述べる蘭の言葉を聞いて、サクラも自分が発した言葉に疑問を持つ。


「そういえば、どこでこんな諺を覚えたのかな? なんか無意識に出てきたけど......」


 暫く二人で考え込んでいたのだが、やはり脳筋に思考は向いていなかったのか、蘭が直ぐに声を発した。


「そんな事よりも、飯にしようぜ! 聞いたか? 地下街の入り口を全てカメラで見張ってるから出てきたら追撃しろってさ」


「ええ。聞いたわよ。でも、逃げ込んだのは二人なんでしょ?」


「そうだ。男とオレがエアバレットをぶちこんだ女だけだ。まあ、オレのエアバレットを食らったんだ。見た目は普通でも内臓破裂で死んでると思うがな」


「じゃ、男だけ......」


 蘭の台詞を聞いていたサクラが再び思考の世界に突入する。


 ――なんですばるくんが......それに雰囲気が違ってたし......


 サクラは思い詰めた表情で考え込む。しかし、蘭はそんなサクラを気にすることなく告げる。


「なあ、ビッグステーキランチ二人前でもいいか?」


「ぷふっ!」


 そんな蘭を見て、思考を巡らせていたサクラは思わず吹き出すのだった。







 温かな感触、柔らかな肌触り。

 幸せを全身で受け止めているような感触でスバルは目を覚ました。


 ――なんか、とても幸せな気分なんだが......


 その心地よさに目を向けると、何重ものタオルケットで身体を包まれていた。


 こんなもの何処から持ち出したんだ?


 大きなタオルケットの存在に、スバルは頭を傾げる。

 ただ、その温もりを与えてるのがタオルケットだけでないことに気付く。


 ――ん? あっ、由華......なんでだ? それも......うはっ!


 柔らかな感触と温もりの根本的な要因に気付いて、スバルは意図せず息を呑む。


 それもそのはず。既に生唾だらけのスバルの視線の先には、寄り添うように由華が横たわっていたのだ。

 それだけならスバルが動揺する事も無いのだが、それは唯の胸ではなく、何も身に着けていない大きな生乳だったからだ。


 そう、ガタガタと震えるスバルを見た時に、由華は自分の身体で温めることを決意したのだ。

 一度決めるとそれに突き進むイノシシのような由華は、室内を漁り捲って割と綺麗なタオルケットを見つけた。

 どうやら、それは消耗品ということで放置されてしまったのだろう。

 そんな折りたたまれたタオルケットを見つけた由華は、スバルの服を全て脱がすと、躊躇ちゅうちょすることなく自分も裸になって彼の側に横たわったのだ。




 ――おお、これこそが至高。これこそが幸福。昇天しそうだ。我が人生に一片の悔いなし......いや、まだ悔いが残ってるぞ......


 その存在と感触に、スバルは最高の一時だと考えるが、ハイエナのように飢えた年頃の彼に、それを眺めて終わらせるのは不可能と言えるだろう。


 ――ちょっとくらいはいいよな? このままじゃ、悔いが残るからな......


 うずうずとスケベ心にくすぐられ、自分に押し付けられた由華の大きな胸に手を伸ばす。


 ――おお~! 柔らかい......いや、この弾力は......いい仕事してますね~。


 別に由華が仕事をしている訳ではないのだが、ボキャブラリーの少ないスバルは、古いネタを心の中で繰り広げる。


「あ! うん! ううん!」


 調子に乗ったスバルが由華の胸を揉み始めると、彼女の口から怪しい吐息が漏れ始める。


 ――これでも起きないのか......なら、もう少しは大丈夫だな。いや、ここはガッツリ行きたいよね。


 何がガッツリだという疑問が生まれるが、ごちそうを前にしたハイエナ同然のスバルに何を言っても無駄だろう。


 そう、由華が目を覚まさないのを良い事に、ハイエナは彼女の胸に舌をわせ始めたのだ。

 それは、ただ舐めるのではなく、彼女の胸の突起を執拗しつように攻め立てていた。


「う、ううん。はう! な、何を遣ってるのよ! 誰に断って勝手に舐めてるの!」


 いやいや、断り入れて愛撫する者も居ないと思うのだが、さすがに目を覚ました由華は、驚きと共に素っ頓狂すっとんきょうなことを口にする。

 ところが、既にスイッチの入ったスバルは、それに答えることなく彼女の胸をより激しくもてあそび始める。


「あ、あう、うはん......だめ、だめよ。なにして......だめ......あう......」


 必死に身をよじって抵抗する由華だったが、その反抗に力強さはなく、スバルにされるがままになっていく。


 ――あう......駄目なのに......気持ちいい......でも......ダメなの......だけど......


 その気になれば、スバルをぶん殴る事も投げ飛ばすこともできる筈なのに、由華はまるでポーズであるかのような抵抗を試みたものの、身体を駆け巡る初めての感覚に溺れていく。


 出会った頃なら間違いなく蹴り飛ばしたのであろうが、スバルに何度も窮地きゅうちを救われ、彼の心の温かさを知ったことで、由華の心は彼に奪われてしまったのだ。

 そう、由華は落ちちゃったのだ。たった二日そこらでスバルに惚れてしまったのだ。

 速いというか、軽いというか、なんと表現して良いのか解らないが、恐らく危機的な状況が彼女の心を急激に促進させたのだろう。


 ――ああ、そ、そこは......ダメ......


 スバルの手が下半身に伸びると、由華は思わず身を固くする。


「す、スバル......そこは......ダメなの......拭いてないし......恥ずかしい......」


「問題ない。気にするな」


 胸と下半身を同時に攻め立てられ、虚ろな声で制止する由華だったが、スバルはそれを一蹴すると、ごそごそと大きなタオルケットの中に潜り込み、由華の下半身まで舌を這わせ始めた。


「ああ、ダメよ。汚いわ......は、は、恥ずかしい......」


 本来なら暗くて見えない筈なのだが、スバルにとっては煌々こうこうとした明かりの中にいるようなものなのだ。

 それを知っている由華は両手で下半身を隠そうとする。


「汚くなんてないぞ。それに由華なら汚くても平気だ」


 完全にその気になっているスバルにとって、由華の言葉は何の意味も持たなかった。いや、それは逆に、彼の心に火を点けた。それも全身が燃え上がるような炎だった。


 ――あう......恥ずかしいのに......駄目なのに......こんなに気持ちいいなんて......それに、私なら汚くても平気なんて言われたら......もうだめ......


 由華は初めての感覚に身をよじらせながらも、スバルに優しく退けられた両手で彼の頭を撫でる。


 それは由華にとって、これまでにない感覚であり快感あり恍惚こうこつであった。

 それ故に、彼女はスバルの手に、指に、舌に、その全てに抵抗する術を知らなかった。


「だ、だめ......なんか、おかしな気分なの......自分が自分じゃないみたいな......もうだめ......おかしくなりそう......」


「それが快感というものさ。由華、初めは痛いかもしれないが、少しだけ我慢してくれ」


 自分も初めての癖に、由華に対してまるで手慣れた風に言うと、スバルは由華に口付けをしてきた。


 ――あう......スバルと口付け......なんで? 全然嫌じゃない......ああ、ずっとこうしていたい......あ、い、痛い......す、少しどころか、すごく痛いじゃない......スバルのバカ......


「す、スバル、痛い......痛いの......」


「初めての時はそうらしいが、そのうち良くなるはずだ。我慢できるか?」


 あまりの痛さに、思わずそれを口にした由華だったが、スバルは何処かで聞いた知識を披露する。

 すると、由華はスバルの首に両手を回しながら頷く。


「う、うん。我慢する......いたっ......でも、凄く幸せな感じがする」


「ああ、今、俺とお前が一つになってるからな。俺もとても幸せな気分だ」


 痛さに身をさいなまされながらも、由華はスバルが自分の中にいる感覚に底知れない幸福を感じていた。しかし、それは彼女だけでなく、スバルも同じだったようだ。


 ――由華の中って、めっちゃ温かい......それに、めっちゃ気持ちいい......これが......というか、素直な由華がめっちゃ可愛い......なんか、由華の事がめっちゃいとおしいんだけど......


 初めての情事に、スバルも表現できないほどの快感を得ていたのだが、それと同時に由華のことを最愛の恋人のように感じていてた。

 

 そんなスバルに、少し涙目の由華が問い掛けてきた。


「こ、これが......わ、私、私とスバルが......」


「ああ、結ばれてるんだ。いやか?」


 スバルに問われた由華は首を横に振る。


「ううん。全然嫌じゃない。凄く痛いけど、でも、凄く幸せな気分なの......」


「俺もだ。由華、お前は最高だ」


「ほ、ほんと?」


「ああ、本当だ!」


「う、嬉しい。私も......あなたの事が......す、す、好きよ」


「俺も好きだぞ! 由華!」


 お互いの気持ちを伝えあった二人はむさぼるように身体を求め合った。

 何度も何度も、それはたがが外れたかのように続けた。


 こうして二人はお互いの心を溶かし合うかのように愛し合ったのだった。


 まあ、要は遣り捲っただけなのだが――

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