第四章 対決

第161話 反対派

「だからそこはあなたの演奏でいいじゃないの!」


「ええ!ここは絶対オルトルの歌がいるとこでしょ!」


 ユリアーナとオルトルートさんがずっとこんな調子で朝から騒いでいる。


 本番に向けての段取りを決めているらしいが、パッと見喧嘩しているようにしか見えなかったので、一度仲裁に入ったんだ。そしたら


「あ、いつもの事なのでお構いなく」「こんなの喧嘩のうちに入らないよ~」


 等と二人に普通に言われてしまったので、それ以来ずっとノータッチだ。


 まあ、それだけ真剣にやっているということなのだろう。プロ意識とも言えるのかもしれないな。


 なのでその辺りはプロの二人に任せるとして・・・と言うか、ほとんどの場面でプロ任せなわけだが。


 だって、内装とかの専門的な話なんて俺にわかるわけないじゃん!大体の方向性を決めたら、後は専門家任せですよ。


 各部署の進捗具合を確認したり、招待するお客さんを確認したり、食料や備品の調達ルート等の再確認を行ったり・・・。


 あれ?割と忙しくね?


 まあ、そんな感じでそこそこに忙しい日々を過ごしていたある日の事だった。


「何か外が騒がしくありませんか?」


 エレオノーレさんがそう言ったので、外へ出て確認したら、十人ほどの人がプラカードの様な物を持って門前で騒いでいるのが見えた。


「あ、シンシン!」


「ルーナさん、あれは何です?」


 そう言って俺は門前で騒いでいる奴らを指さした。


「反対派の奴らだよ」


「反対派?」


「そう、女王陛下のやる事成すこと全てに反対する、だから反対派」


 そう言ってルーナは肩をすくめた。まじかよ・・・。そういえば、初めてこの街に来た時もそんな集団を見かけたな・・・。めんどくさっ。


 俺はこの時、それほど事態を深刻な物とは捉えていなかった。でも後になってそれが間違いだったと気付かされる羽目になる。


 次の日。


「あれ?」


「なんです?」


 俺はユリアーナの言葉にそう反応した。


「いや、なんか反対派の人数増えてない?」


「え?」


 その言葉に俺は窓から身を乗り出して門の方を見た。


 ユリアーナの言葉通り、少なくとも昨日の3倍くらいには、反対派の人間が増えている気がする。


「ねえ、これ大丈夫なの?」


 いつも強気な感じのオルトルートさんまでもが少し不安な様子で窓の外を見ている。とは言え、俺もどうすれば良いのかなんて全く分からんので、これ以上騒ぎがでかくなるようだったら、直接彼らと話をすることも考える必要があるかもなあ。


 しかし、ここ数日陛下がこちらの施設に来られてないのは不幸中の幸いかも。


 そして幸いな事に、それから数日間は反対派の人間が急激に増えたりすることは無かった。しかしある日・・・。


「うわっ、何あれ・・・」


 ユリアーナが窓の外を見て、そんな事をつぶやいていた。そのあまりのうんざりした口調と表情を見て、俺も窓から外を覗いてみると・・・。


「うわっ!なんだありゃ・・・」


 俺も思わずそう口から出てしまった。


 窓の外・・・と言うか、門周辺にこれまで見た事もないくらいの人数の反対派がプラカードを手に押し掛けていた。


 その数これまでの10倍くらいはいるんじゃないだろうか?


「何で急にこんなに増えたんですか?」


「知らないよー!あの人たちに聞いてよ!」


 俺の問いにユリアーナは少し切れ気味に答えてきた。


 一体どうなってんの?何かあいつらを刺激するような事やったか?俺がそんな事を考えていると、数台の馬車が群衆をかき分けるようにして門の中へと入ってきた。


 そして馬車から降りてきたのは、オルガ女王陛下だった。


 あーなるほど、女王陛下が来ることを嗅ぎつけた反対派の人間が一挙に駆け付けたって所か。はあ、ご苦労な事だな・・・。


 そう思いながら、俺達は陛下を出迎えるため、玄関へと急いだ。


「陛下、大丈夫ですか?」


「ええ、コレナガさん。私達は大丈夫です。しかしこれは・・・」


 陛下はそう言いながら、閉じられた門の向こうの騒ぎのほうへ振り向く。


「いつからこんな状態に?」


「いえ、いつもはこの十分の一くらいの規模だったのですが、今日は何故か急に人が増えて・・・」


「そうなのですか?」


「はい」


 俺がそう答えると、陛下は顎に手を当てて何やら考えている様子だ。


「ねえ、これおかしくない?」


 すると突然ユリアーナがそんな事を言い出した。


「何がおかしいんですか?」


ん~、後で話すわ。そう言ってその話はそこで止められた。何だよ気になるだろう・・・。


 そしてその日は、門の内側を念の為に陛下の親衛隊で固めておいた。もちろん彼らを刺激しないよう、門は締め切ったままでね。


 しかし今後業者が商品なんかを搬入に来るたびに、ひと悶着あるんじゃないかと少し心配になるな・・・。


 そしてその日は、夕方になっても反対派の奴らが門前を陣取っていたので、陛下の安全の事も考え、こんばんは屋敷に泊まってもらうことに。泊まってもらうって言うか、ここは陛下の所有する建物なんだから、その表現は変だな。


 そしてその日の夕食後、俺は昼間ユリアーナが言いかけた言葉の続きを聞くことにした。途中で止められたもんだから、ずっともやもやしてたんだよな。


「あー、あれねー。うーん」


 しかしどうしたことか、ユリアーナはどうにも歯切れが悪かった。何だよ昼間は意味深な言い方してたくせに。


「あの、私がいては話しにくい事なら席を外しましょうか?」


 ユリアーナのそんな態度を見た陛下が気を使ってそう言い出した。ユリアーナの奴、陛下に気を遣わせるんじゃねーよ。


「いや、うーん、陛下にも聞いてもらったほうが良いかな・・・うん」


 誰に言うわけでもなく、一人で勝手に納得したユリアーナは、それからは遠慮なく話し始めた。


「昼間言おうとしていたのは、今日、急に反対派の人間が増えた事だよ」


「いえでも、それは陛下が来られたからでしょ?」


 見りゃわかるじゃん。俺も最初何で人が多いのかわからなかったけど、陛下が来られた今となってはそれしか理由はないだろ。別におかしな所なんて無くね?

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