第152話 アリサの帰還
「ただいま戻りましたわ」
そう言ってある日突然アリサが戻ってきた。いやそりゃ、戻ってくるのに前もってと連絡しろとかそういう事を言ってるわけじゃない。予定をかなり大幅に過ぎてから戻ってきたんだ。
「さすがにちょっと心配しました」
俺は素直に今の心境を伝えたよ。だってアリサが強いのは知っているが、つい先日ユーディーとローフィル族のノーラという女に襲われたばかりだ。そりゃあ心配になるってものだ。
「シンちゃんったら、ずっとあなたの事が心配で落ち着いてなかったからねー」
「ちょっと!言い方!」
その言い方だと、まるで俺がアリサに特別な感情でも持っているかのように聞こえるだろうが!
「あら?そうでしたの?それは申し訳ありませんでしたわ」
しかし当のアリサは別に意にも介していないようだった。なんだよ俺だけ慌てて恥ずかしいんですけど!
「でも、こうやって心配されるのも悪い気分ではありませんわね。たまには心配かけるような事してみるのも良いかもしれませんわ」
「勘弁してください」
「冗談ですわ」
ただでさえ心配かけさせるユリアーナと言う存在がいるんだから、これ以上はもう間に合ってます。
「ん?なんか言ったシンちゃん?」
「な、何も言ってませんよ!」
「あれ?じゃあ聞き間違いか」
ユリアーナの奴こわ!
「それはそうとなんで遅くなったのよ?」
そうそれ!俺も気になってた。俺が言うのもなんだが、アリサは俺達の中でも特に効率を求めるタイプだ。なので、予定より早く帰ってくることはあっても、遅くなることは無いと思ってたんだ。なのですげえ心配してたんだが・・・。
「ああ、それは・・・これを見てもらえばわかりますわ」
そう言ってアリサは自分のマザープレートを取り出して、それを俺達に見せてきた。あれ?なんだこれ?何かすげえ情報量が多いぞ。
普通マザープレートには、俺の名前、冒険者レベル、今受けてるクエスト一覧が表示されているんだけど、アリサのプレートにはスマホのアイコンみたいなものが並んでいた。
「あの、これなんか俺のプレートとは全然違うんですけど・・・」
「そりゃシンちゃんのは一般に普及している奴と同じだもん。前言ったでしょ?」
なんだと・・・。え?俺のプレートっていまだに初期バージョンなのかよ!
「ずるいじゃないですか!僕も新しいの欲しいです!」
「新しいのもらってもシンちゃんが使う所なんてないじゃない」
「いやでも、なんか新しいのって聞くだけでくすぐられる物がですね・・・」
「あーもううるさいですわっ!」
俺とユリアーナがギャーギャー言っていると、アリサから怒られてしまった。
「はい、これでOKですわ」
そしてプレートを操作していたアリサがそんな事を言い出した。
「何がOKなんです?」
「さあ」
俺がユリアーナに訪ねると、彼女もわからないようだった。
「ユリアーナ、プレートのBモードを起動してくださいな」
Bモード!なんだそのカッコいい名称は・・・。俺のには無いのか?
「え?Bモード!?」
そんなのんきな俺の思いとは裏腹に、ユリアーナにしては珍しく慌てた様子でプレートをいじりだす。え?Bモードって一体何なの?危ないやつじゃないだろうな。なんか心配になってきた・・・。
「ビ、Bモードに接続できてる・・・」
あのユリアーナが呆気に取られたような顔をしている。一体何なんだよBモードって!すげえ気になってきた!
「あの、Bモードって何ですか?」
「シンちゃん、以前魔力ネットについて説明したの覚えてる?」
「あ、はい覚えています」
魔力ネットってのは、一定の距離に中継器と言われる者を設置し、それを利用して魔力を遠方へ送れるシステムの事だ。インターネットみたいだなって話をしたのを覚えてる。
「その魔力ネットがどうかしたんですか・・・いやちょっと待って!」
おい、Bモードに接続できてるってさっきユリアーナは言ったよな。接続って、まさか・・・。
「あの、まさかとは思いますが、魔力ネットに接続されているんですか?」
「うん。今接続してみたらちゃんと出来てた・・・」
「えええ!」
いやだって、魔力ネットを遠方へ飛ばすには中継器が必要だって話じゃん!それはどうしたんだよ!?ここ、バルサナだよ?
「ねえアリサ、もしかして戻るのが遅れたのって・・・」
「ご明察ですわ。ここまでの道中、中継器を設置しながら戻ってまいりましたの」
「無茶苦茶だわ・・・」
ユリアーナは頭を抱えてしゃがみ込んでいた。あの
「あの、中継器ってそんな簡単に設置出来るようなものなんですか?」
まるで何か目印でも置いてきたかのように簡単に話しているが、魔力を伝達させる中継器だぞ?そんな簡単に設置できるもんなの?
「難しくありませんわ。魔力が多く滞留している場所を探してそこに設置するだけですから」
別にたいしたことではないかのようにアリサが話してくるので、俺は一瞬そんなもんなの?とか思ってしまったが・・・。
「ダメだよシンちゃん、アリサの言う事を鵜呑みにしちゃ」
「あ、やっぱりそうですか?」
「魔力感知って技術で魔力を探るんだけどさ、人間や大型の魔獣が持つ魔力、しかもそれが大きければ大きいほど見つけやすいのよ」
そう言ってユリアーナは俺にその仕組みを説明してくれた。
「以前どんな動物や草木にも魔力があるって話をしたじゃない?」
「はい、覚えてますよ」
「魔力が滞留している場所って言うのは、そういった魔力を持った動植物がたくさん集まった場所になるのね」
「じゃあそう言った、草木や小動物が密集している場所を探せばよいって事ですか?」
「ところがそうはいかないのよね。なぜならそう言った動植物が保持する魔力は普通には感知できないほど微々たるものだから。魔力量も個人差があるのよ」
そう言って、私には絶対無理な芸当なのよねと肩をすくめて見せた。
「でも、アリサは出来ちゃうの。虫一匹草一本が保持する極微小な魔力を感知するって事を。しんじられないよねー」
「あら、それはそれで大変ですのよ。気を抜くと至る所から魔力が溢れていて、訳が分からなくなりそうですもの」
「そんなにですか?」
魔力感知がどんなものかわからない俺にはイマイチピンとこなかった。
「シンちゃんがね?道を歩いていて、アリとかそれに類する生物を全部認識出来たらどうする?」
「いや、それはちょっと勘弁してほしいですね・・・。なるほど、なんか分かった気がします」
「でしょー?私も考えただけでぞっとするわ」
「はいはい、まあ、それは良いとして」
パンパンと手を叩き、アリサが話を中断させた。
「これでバリー商会とは迅速な連絡が取れますわ」
と言うか、バルサナ王国に中継器の話をするわけにもいかないだろうから、当然無許可で設置してきたんだろうなあ。ばれることは無いと思うが、この人ユリアーナが可愛く見えるくらい大胆な人だな。
まあそれはともかく、輸送手段はどうにもできないが、魔力ネットが繋がっているなら色々なことに対応できそうだ。後は宿のオーナー達との契約等を含めた細かな点を詰めていかなきゃな。
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