第126話 会いたかった
部屋の中に俺の姿を見付けた兵士は、慌てた様子で俺の腕をつかみ、部屋の中から連れて行こうとする。
「ちょ、ちょっと待ってください!一体どういうことですか!?」
まじで怖いんですけど!何なのコレ?
「隊長がお前をお呼びなのだ!」
「隊長ですか?」
隊長って、軍隊の隊長って事だよな?なんでそんな人が俺を呼ぶわけ?・・・あ!もしかして森の中で俺が文句を言った相手が実は隊長で、あの時の俺の態度がムカついてるとかそういう事か!?もしそうだったらやばい!俺一体何されちゃうの?
「あの、僕はそちらの隊長になにかしたのでしょうか?」
「お前隊長と面識あるのか?」
「いえ、どなたが隊長かもわかってないです・・・」
「だよな。隊長は森にも来て無かったし」
あれー?じゃあなんで俺を名指しで呼んだりするんだよ!
「お前のとこのローフィルの女が隊長と話してたんだが、しばらくしたら突然隊長の顔色が変わって「シン・コレナガを呼べ!」って言い出したんだ」
ゆ、ゆりああなあああああああああああああああああっ!おまえかあああっ!つーかあいつ一体隊長に何を言ったわけ!?一体どんな失礼な事を言ったら俺が呼ばれる事態になるんだ!
そして俺はそのまま兵士に連れていかれ、建物の外に出た。あれ?何で外?
「あの、隊長の所へ行くのでは?」
「隊長はこちらにはいらっしゃらない。女性囚人の建物に居る」
おう、牢屋も男女別か。なかなか進んでるじゃないか。いやそれどころじゃないんだが。あまりに目まぐるしく物事が進むものだから、ユーディーとの一件に関してショックを引きずる余裕もないのが救いだけど、もっと別の何かで紛らわせてくれても良かったんじゃね!?
兵士に連れられて来た先は、同じ敷地内の建物だった。こっちが女用の牢って事か。そして兵士に連れられて建物の奥へと連れていかれる。突き当りのドアへ来ると、兵士がいったん止まった。
「失礼します!シン・コレナガを連れてまいりました!」
「入ってください」
兵士の声に答えたのは、線が細そうな感じの女の声だった。この声の主がこんなにも兵士達をびびらせてるのか?想像つかないんだけど・・・。
そして兵士がドアを開け、俺はびびりながら部屋の中へと入って行った。半分開いたドアから部屋の壁側を見ると、ユリアーナがニヤニヤしながら立っている。こいつは一体何をやらかしてくれたんだろう・・・?
そう考えながら正面に目を向けた。そこにはローフィル族の女と、長いストレートの黒髪が特徴的な、まるでティルデとアリーナのような人物が居た。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「え・・・ちょっと・・・ええっ・・・な、なんでここに・・・」
俺の頭は大混乱だ。ずっとずっと探していたティルデとアリーナの姿がそこにあったからだ。アルターラではバルサナに向かったという情報を得た。でもそこに居たのはティルデとアリーナでは無かった。そして今回は見つからなかったと諦めていた。
「ティ・・・」
「兵士長、少し席を外して頂けませんか?」
俺がティルデの名前を呼ぼうとした瞬間、それを遮るように俺を連れて来た兵士にアリーナはそう告げていた。
「は?いやしかし・・・」
「大丈夫です。彼らは古い友人なのです」
「・・・わかりました。しかし何かりましたらすぐに参りますので・・・」
アリーナにそう言われた兵士長は、しぶしぶと言った感じで部屋を出て行った。そして彼が出て行ったのを確認して、俺は改めてティルデに向き直った。
「お久しぶりです、ティルデ」
やばい!ティルデと思っていた人物がユーディーだったと分かった時、またしばらく会えないと覚悟していた。なのに、ホントにバルサナに居るなんて!感動で俺泣きそうだ!
「あの・・・」
しかし当のティルデ本人は、腕を組んだまま明後日の方向を向いてつーんとしている。あれ?俺何かしたっけ?ここは感動のあまり二人で熱い抱擁とかの場面じゃねーの?
「コレナガさん」
「はい」
俺が大変困惑していると、アリーナが声を掛けて来た。
「ティルデさんは、へそを曲げているんですよ」
「・・・は?」
「ちょっと!アリーナ!」
アリーナのその言葉にティルデが抗議の声を上げる。つか、へそを曲げるって何?だって俺、ずっと会って無かったんだよ?
「コレナガさんがリバーランドの地下牢に入ってた時、ティルデさんに会ってあげなかったじゃないですか」
「・・・へ?・・・あ、ああ!」
俺がリバーランドの金髪優男のアルフレートに牢にぶち込まれた時、俺は自分が情けなくて、ティルデに合わす顔が無くて、ずっと面会を断ってたんだった。え?もしかしてずっとあの事を根に持ってたのか?
「えっと、あの・・・」
「私、あなたに面会を何度も申し込んでたのに、全部断られて・・・」
うわー、まじで根に持ってらっしゃる・・・。俺は慌ててアリーナやユリアーナに目で助けを求めたが、アリーナからは苦笑いが返って来て、ユリアーナからはムリムリムリってジェスチャーを返された。
「あの、すみませんでした。なんかこう、何もかも上手くいきそうだった時に、全部どん底に落とされた気持ちになってしまって・・・。それで・・・その・・・あまりに情けなさすぎて、あなたに合わせる顔が無かったと言いますか・・・」
俺はしどろもどろになって必死にティルデに言い訳した。そりゃもう、ユリアーナに合コンがバレた時以上に必死だったろう。でも彼女は本気で怒っていたわけでは無かったようだ。だって・・・。
「会いたかった」
そう言って、みっともない言い訳の途中で俺をぎゅっと抱きしめてくれたんだ。全身がふわっと暖かいものに包まれる感覚。
「僕も会いたかったです。僕を助けてくれたあなたに、まだちゃんと「ありがとう」を言えてなかった・・・」
だから俺も素直にそう言ったよ。本当に会えてよかった。本当に会いたかった。そして俺をリバーランドから助けてくれて本当にありがとうと伝えたかった。
こんな時、普段なら冷やかしに入るユリアーナも今回ばかりは何も言わなかった。と言うか、あいつもちょっと泣いてたんじゃね?いや、そう言う俺もちょっと泣いてしまったんだけどな。
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