第125話 バルサナ軍

 ベッドと小さなテーブルが置かれている部屋で、ひざを抱えて俺は一人でじっと座っていた。一体何をしているのかと言うと、バルサナ軍に捕まってしまったのでしょんぼりしている所だ。


 何故こんな事になってしまったのか、少し話は長くなる。レギアス達が去って行った後に、馬に乗ってやって来た兵士の集団、あれはバルサナ王国軍の兵士だったんだ。


「お前達!ここで何をしている!」


 なんか、どっかの小説だかゲームだかのセリフで見たような事を一番前に居た兵士から言われた。


「見ての通り襲われていました」


 答えたのはエレオノーレさんだった。すげえ、さも当然みればわかるでしょ?って言い方だったな。


「この者達はお前達がやったのか?」


「襲われたから返り討ちにしてやったのよ」


 これに返答したのはユリアーナだ。おいおい、そんな失礼な態度で答えて、兵士の心証を悪くしたらどうするんだよ!びびってるんじゃないからな!一般的な常識の話だからな!


 ユリアーナの返事を聞いた兵士は馬を降り、顔面に弓が刺さっている3人を見て、何やら他の兵士と話し込んでいた。


 と言うか、改めて死んだ3人を見るとかなりえぐい事になっていた。正直吐きそうだ。ブリジッタとソフィは馬車から降りてこないように言っておいて正解だった。こんなもん見たら、一生もんのトラウマになってしまう。


「よし、お前たちは一旦軍本部へと連行させてもらう」


 兵士同士でしばらく話していたかと思うと、急にそんな事を言い出すバルサナ兵。連行って、それって逮捕と同義語じゃないのか?


「えー!なんでよー!どう考えても私達怪しくないでしょー!」


「悪いな、通常だったらこの場で取り調べだけで済むところだが、今回は時期が悪かったと思え」


「え?どういう事?」


「なんだ知らないのか?今ベルストロには女王陛下がいらっしゃっている。なので、些細ささいな出来事も見逃すわけには行かん」


「ベルストロは比較的小さな町と聞いていますが、そんな場所に陛下がいらっしゃるのですか?」


 兵士の言葉にエレオノーレさんが驚いている。そういえば、ベルストロは小さな温泉街と聞いたな。こんな小さな町に偉い人が来る理由も無いし、女王も温泉に入りに来たのか?


「陛下は、どんな小さな町だろうと定期的に巡回しておられる。そうする事で国の繁栄と平和を保っておられるのだ」


 へー、かなり立派な王様らしいな。面倒からは逃げ回ってた俺の日本時代の上司とは大違いだぜ。あの野郎、それで話がこじれるとすぐに俺のせいにしやがって・・・。おっと、思考が明後日の方向へ行ってたぜ。


「偶然街で怪しい二人組を見かけたと通報があり、偶然森の中で争った痕跡があり、偶然それは女王陛下が街に来ていらっしゃる時だった」


 うわー、絶対これ俺達を疑ってるよな。怪しい二人組ってのは・・・まあ、ノーラとユーディーの事だろう。確かに小さい町であのローブ姿は目立つだろう。


「これだけ偶然が続けば、それはもう偶然などとは言わないのだ」


「言いたい事はわかりますが、それはちょっと横暴なのでは?」


 さすがの俺もちょっとムカッときてしまった。極端すぎるだろ?


「では、現行犯に切り替えるか?」


「すみませんでした!」


「うわあ、シンちゃん・・・」


 ユリアーナが俺をジト目で見ている。やめろ!俺をそんな目で見るな!長いものには巻かれろの精神でずっとやってきたんだぞ!あーもう、口出ししなきゃよかった・・・。


「まあ恐らくは、女王陛下が本国へ帰還されるまでの辛抱だ。それまでは軍の保護下で監視と取り調べを行わせてもらう」


「それって牢屋へ入れられるって事?」


「牢と言っても、ベッドとテーブルは完備されている。お前たちが考えているような場所では無い」


「え?牢なのにベッドとかあるんですか?」


 何それ?俺の考えていた牢屋と違う!俺の知ってる異世界の牢屋って、じめじめした石レンガか何かで造られたような、虫とか出てきそうな場所なんだが。


「極悪犯罪人は本国へと送られるから、それまでの間の汚い牢屋だが、それ以外の軽犯罪人は、最低限の生活は保障されている」


 へーそれならまあいいか・・・ってなるかー!


「あの、見ての通り我々は襲われた身です。ローフィルとエルフの二人はともかく、残り4人のうち二人は初心者冒険者、あとの二人は戦闘のせの字も知らない者です。何かを企むにはおかしな組み合わせだと思いませんか?」


 いやもう必死だからすらすら言葉が出て来たわー。つーか、俺は何も脚色はしていないんだけどな。ありのままを言っただけだ。


「悪いが、期間中は我慢するんだな。取り調べ中にお前達の容疑が晴れる証拠でも出れば、早期に解放されるだろう。以上だ」


 しかし兵士には、もうこれ以上話すことは無いと言わんばかりに話を打ち切られた。そして俺達は馬車に乗り、周りを兵士に囲まれたままベルストロの町に入った。


 はあ、ホーキンスやレギアスの裏切りに合い、さらにはユーディーと不本意な再会。まったくなんて日だ・・・。


 そして俺達は、みんなバラバラにされて軟禁状態にされているってわけだ。ブリジッタとソフィなんか、ぶるぶる震えてたよ。悪いことしたなあ。


「それにしても・・・」


 俺は座り込んだまま、今日起こった出来事を考えていた。


 牧場の人達が見た二人組と言うのは、ティルデ達では無く、恐らくユーディーとノーラの事だろう。俺達をここまで誘導するように仕組んでいる事から間違いないと思う。と言うか、なんでベルストロだったんだ?アルターラや宿場町でも良かったんじゃ?


 そこまで色々と考えてはみたが、当人たちがここにはもう居ない上、次に会えるかどうかもわからない。しかも会いたいような会いたくないような・・・。だって俺を殺しに来るんだよ?あのユーディーが俺を。もうショックで仕方ない。


 5年前に二人でハイランド付近の森での難局を乗り切った事は今でも鮮明に覚えてるよ。あの後ユーディーからパーティーを組みませんか?って言われて、俺断ったんだよな。だって彼女の足を引っ張りそうだったんだもん。あの時彼女と一緒に冒険していたら、違った未来が有ったのかなあ。


 そんな感じで、ユリアーナに言わせれば「後ろ向きに」考え事をしていると、突然俺を呼ぶ声が部屋の外から聞こえて来た。


「シン・コレナガ!シン・コレナガはいるか!」


「え?あ、はい!」


 なんだよ、なんなんだよ!突然呼ばれたと思ったら、すげえ形相で兵士が部屋の外に立ってるんですけど。チョー怖いんですけどー!・・・俺、何もしてないぞ?

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